「いえ。インフルエンザではないと思います」
もう何年も前のことですが、私は医師に向かって、そう言い放ってしまったことがあります。言おうと考えて言ったというのではなく、「インフルエンザの検査をします」という医師の言葉を聞いた瞬間に、反射的にぽろっと口から滑り出てしまったのです。「つい」出ただけに、自分でも内心あわてるほど鋭い断定口調になってしまいました。
重症児者施設で暮らす娘が週末の帰省中に熱を出したので、念のためにちょっと早めに帰園させてもらった時のことです。インフルエンザが流行り始めたとのニュースを聞いた直後だけに、いきなり38度6分の熱が出た時には親としてもギクッとしました。でも、本人は軽い咳があるものの普段どおりの顔色と元気のよさで、特に食欲が落ちることもなく、「おかあさんといっしょ」のDVDに踊り騒いでいます。熱もその後は37度台のまま推移しているので、これならインフルエンザではないだろうと安心しました。ただ咳が増えてきたので風邪を引いているのは間違いなく、念のために早く帰らせてもらったほうがよかろうと判断したのでした。
このあたりの判断の力加減は、3日と続けて元気だったことのない幼児期から、何度も死にかけるほどの事態に付き合いながら娘と生きてきた親にとっては、ほとんど身体感覚のように身についたものなのです。重い障害のある子どもを長年ケアしてきた親は、顔つき、眼の力、息遣いなど、数値化されることのない指標で我が子の状態を測ります。
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