地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2016年07月号 vol.2(7)

「エビデンスがある」で止まったのでは見えないもの

2016年06月25日 22:59 by spitzibara
2016年06月25日 22:59 by spitzibara

 いつもtyabu7973さんの「非薬物療法」シリーズを楽しみに読ませていただいています。先月の「第9回:リンゴジュースは小児の胃腸炎の点滴や入院を減らしますか?」は、かつて言語道断なほど虚弱だったウチの娘も、幼児期には風邪で熱を出すたびに水分補給が最重要課題だったので、ことに興味深く拝読しました。

  娘の場合、「発熱時でも、これだけは飲んでくれる」というものにはその時々の「マイ・ブーム」があって、幼児期にはリンゴジュースから牛乳を経てポカリスウェットそれから野菜ジュースという変遷を辿りました。また昔から「三度のメシより納豆が大好き」なので、けっこうな高熱が出ている時でも納豆だけは食べることができていました。今でも、重症児者施設で暮らしている娘が寝込むと、「食欲がないようなので、納豆を持ってきてあげてください」と電話がかかります。「海さんが納豆も食べたがらなくなったら、本気でヤバイ」と、直接処遇スタッフの間では、やられ方を測る一つのバロメーターになっています。

 園で暮らす人が体調を崩して食欲が落ちると、現場の直接処遇スタッフは「この人はポテトサラダ」とか「この人はそうめん」とか、「食欲が落ちても、これなら食べられる」という、それぞれの好物をよく知っておられます。医師にとっては「点滴すれば済むこと」でしかないのかもしれませんが、誰かがそうした心遣いをしてくれて、自分の好きなものを「せめて」と差し出してくれることは、体調を崩して心細い時に、どんなに温かい励ましになり、力になることでしょう。

 目の前に自分の好物の納豆が、ポテトサラダが、そうめんが、出てきた時に、言葉を持たない人たちが見せる「にっこり」や「にんまり」を、「あぁ、よかった」「まだ食べられるねぇ。元気があるねぇ」と受け止め、喜んでくださる看護職や支援職の方々の気持ちこそが、まさに「ケア」なんだろうと思います。

 そういうことを思いながら、tyabu7973さんの記事を読み進めていって、最後に「こういった薬に頼らないケアの効果がきちんと証明されていくことはとても重要だなと改めて思いました」と、「治療」ではなく「ケア」という言葉を使って書いておられることに、大きく共感したのでした。

 そして、同時に頭に浮かんだ「耳のじょくそうに保護剤」のエピソードを、どうしても披露したくなりました。

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