地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2016年07月号 vol.2(7)

「事例から学ぶ疫学入門」第10回:薬が効くとはどういうことか~薬剤効果の3世界論~

2016年06月17日 22:05 by syuichiao
2016年06月17日 22:05 by syuichiao

 薬剤効果の記述方法について、前回は統計的仮説検定を取り上げました。臨床試験(ランダム化比較試験)により示された薬の効果が、偶然によるものなのか、それとも必然によるものなのか、5%という、ある意味では恣意的な分節基準によって判断していることを確認したわけです。そして、これは実際に人に影響を与えうる薬剤効果「あり」「なし」、とは別次元の考え方であることも指摘しました。偶然か必然か、その感じ方は人それぞれです。薬剤効果に関して、「有意差あり」、「有意差なし」という記述方法はあまり適切ではないのではないかと結論しました。

 薬剤効果の記述方法は統計的仮説検定だけではありません。今回は、相対指標と推定統計についてまとめたうえで、あらためて薬剤効果の記述について考察していきたいと思います。まずは、以下の表を見てください。

(表1)Kernan WN.et.al.2016をもとに作成

 この表はある薬剤Aの脳卒中・心筋梗塞に対する有効性についてプラセボと比較したランダム化比較試験の結果を示したものです。ハザード比とはいわゆる相対指標のことで、薬剤効果の記述方法の一つです。端的に言うと薬剤Aのアウトカム発症率(9.0%)とプラセボのアウトカム発症率(11.8%)の比(9/11.8≒0.76)を示しています。この研究では4.8年間の追跡を行っていますが、追跡期間中の発症率の比と解釈して大きな誤りはないでしょう。

 このハザード比0.76の単純な解釈としては、薬剤Aは脳卒中・心筋梗塞をプラセボに比べて24%(1.00-0.76=0.24)低下させるということになります。前回取り上げた有意差あり、有意差なし、に比べたら、その効果がより具体的に記述されたという印象ですが、いかがでしょうか。

[事例]

 薬剤効果の記述方法には「有意差あり」、「有意差なし」の他にどのようなものがあるのでしょうか。薬剤効果を最も適切に記述する方法はどのような手法なのでしょうか。

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