睡眠薬は寝つきを良くするわけですが、副作用として一過性の健忘など、認知機能に関する障害が報告されています。これはいわゆる睡眠薬の持越し効果の影響、つまり効果が夜間だけにとどまらず日中にも影響してしまっていることなどが原因だと考えることができます。
あくまでも短期的な認知機能にかかわる障害、と言えそうですが、睡眠薬を長期間にわたり服用し続けているとアルツハイマー病のような本当の認知症にまで発展してしまうものなのでしょうか。
高齢化が進む現代社会、高齢者の睡眠薬の使用も決して少なくありません。そしてそれが原因で認知症が引き起こされているということになれば、公衆衛生上においても重要な問題と言えるかもしれません。
[事例]
睡眠薬を長期間にわたり服用し続けると認知症になってしまうのでしょうか。
[高齢者における睡眠薬の有効性]
そもそも高齢者において、睡眠薬はどれほどの効果なのでしょうか。60歳以上の高齢者を対象に睡眠薬の有効性・安全性を検討したランダム化比較試験24研究の統合解析によれば、総睡眠時間を25.2分[95%信頼区間12.8~37.8]延長したり、夜間覚醒を0.63回[95%信頼区間0.48~0.77]減少させるという結果になっています。
[BMJ. 2005 Nov 19;331(7526):1169. PMID: 16284208]
総睡眠時間の25.2分というのは客観的な数値から受ける印象と、主観的な感覚に差はあるかもしれませんので、まあ効いていると言えなくもないですが、夜間覚醒については1回も減っていません。しかもこの効果は追跡期間5日~9週の研究が解析対象となっており、あくまで短期的な効果です。長期間服用を続けた際の有効性は良く分かっていません。
一方で副作用はもちろん多いです。この統合解析によれば、日中の倦怠感は3.82倍[95%信頼区間1.88~7.80]そして記憶障害も4.78倍[95%信頼区間1.47~15.47]多いという結果です。記憶障害については95%信頼区間の上限が15.47ですから、場合よっては15倍以上増えるということになります。このような一過性の記憶障害が、睡眠薬を漫然と服用することで、長期にわたり繰り返され、それが原因で認知症へ発展してしまうものなのでしょうか。このテーマに関しては複数の研究報告がありますので、主要なものをご紹介しましょう。
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