地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2016年10月号 vol.2(10)

あちら側へ思いを馳せる

2018年03月08日 23:36 by bycomet
2018年03月08日 23:36 by bycomet

川の流れのように

 若かりし頃に読んだ本を再読してみると、まったく違った印象だったり、新しい気づきや教訓を受けとったりすることがあります。

 先日、学生時代に読んだヘルマン・ヘッセの小説「シッダールタ」を30年ぶりに読み返してみました。当時はこの本の感想文を長文で書きましたので、本は熟読していたはずなのですが、三十年以上経過した今、内容は思い出せませんでした。

 まあ、記憶ってそんなものですよね。

 この小説の中で、川のほとりで主人公シッダールタが開眼していく、という印象深いシーンだけはぼんやりと覚えていました。しかし、読み返してみると、今になって受け取る意味合いは、学生当時とは異なるものになっています。

 故郷を捨て、仏陀に帰依する道を捨てて、渡し守のいる川にたどり着いたシッダールタ。その川を渡してもらい、新しい世界へ旅立ちます。
 それから二十年以上が経過し、シッダールタは変わり果てた姿で川へ戻ってくることになります。渡し守に再会したシッダールタは外見だけではなく、ものの考え方や感じ方にも大きな変化がみられていました。

 田舎から上京したぼくにとって、意気揚々と旅立った青年が、夢破れて故郷へ戻ってくる姿を彷彿させる展開です。故郷に立ち帰って長年変わらずそこにある景色を眺めてみても、若かりし頃に感じたものとは、かけ離れたものになっているものです。

 川に戻ってきた時にはすでに、青春とは同じところにはいないものだ、ということでしょう。言い古されたコトバですが、年を重ねることで、わかるようになることがあるのです。

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