「地域包括支援」や「地域医療」のあり方について議論がさかんに行われていますが、その「地域」の片隅で、多くの人の注意を引くこともないまま、ひっそりと進行している深刻な事態があります。

 今回は、地域医療で活躍しておられる読者のみなさんに少しでも知っていただきたいと思い、医療的ケアを必要とする子どもたちの地域での生活実態とその課題について、日本ケアラー連盟の通信に書いたものに手を加える形で、とりまとめてみました。

急増する「医療的ケア児」

 近年、医学の発達で新生児の救命率が上がり、経管栄養や痰の吸引、呼吸管理など医療的ケアを必要とする子どもが増えています。そのため病院NICUや小児科でベッドが不足し、「退院支援」「地域移行」という方向性が打ち出されました。しかし帰っていく地域では支援資源は不足したまま、家族介護者、主として母親たちが過重なケア負担に喘いでいます。

 厚労省の実態調査(2015年度中間報告)によると、医療的ケアが必要な19歳以下の子どもは全国に推計約1万7000人で、2005年度の推計9400人から10年間で約1.8倍に増加。在宅人工呼吸器を必要とする未成年患者は、2005年度の約260人から約3000人へと、10倍以上に急増しています。

不足する支援 疲弊する母親たち

 昨年の障害者総合支援法改正では、こうした子どもたちを「医療的ケア児」と定義し、地方自治体に支援の努力義務が課せられました(「医療的ケア児」という呼称をめぐっては様々な議論があります)。

 医療的ケアを必要とする子どもたちが安定した生活を送るためには、医療と福祉と教育が連携して支援していく必要があります。NICUから十分な移行準備を経たうえで地域に帰す「退院支援」に加えて、生活を支援するための地域の支援資源整備と連携ネットワークが不可欠です。各地で関係者が少しずつ声をあげ、メディアでも取り上げられつつありますが、まだまだどちらも十分ではありません。

 平成26年の一般社団法人全国訪問看護事業協会の報告によると、小児の訪問看護を実施している訪問ステーションは約30%に留まっています。子どもによっては数分おきの痰の吸引など24時間365日の医療的処置や管理が必要になりますが、同報告書には「多くの処置管理が母親によってなされバーンアウト寸前です」と書かれています。

 ここ数年さまざまな自治体や団体から医療的ケアを必要とする子どもや重症重複障害児者の実態調査が報告されており、それらによると主たる介護者の8割から9割が親、主に母親です。睡眠時間が少なく、ある程度の時間が取れたとしても細切れの睡眠になります。どの調査からも、多くの母親が十分な睡眠も休息も取れず、体調を崩しても代わってくれる人がない厳しい状況で、腰痛や慢性疲労など心身の不調を抱えて疲弊している実態が浮かび上がってきます。



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