抗精神病薬というのは、主には統合失調症の治療薬で、幻覚や妄想を和らげる作用を示します。また、双極性障害にも有効で(一部保険適応を取得している薬もあります)、不穏や興奮状態を鎮め、睡眠を得るために使われることもあります。さらに、吐き気やめまいを止めるために使われることもあります。
そのような抗精神病薬の作用メカニズムとは、ひとことで言えばドパミン神経の遮断です。
しかし、ドパミン神経の過剰な遮断は、ドパミン神経の機能低下によって起こる「パーキンソン病」のような症状を引き起こします。薬剤性パーキンソニズムあるいは錐体外路症状と呼ばれる副作用です。例えば、毎秒4回程度の手の震えが起こります。ひどい場合は全身がそのような震えを示します。足がムズムズしてじっとしていられないという症状が出ることも多いです。他にも腕や首がこわばる、足が前に出ず歩きにくくなる、表情がなくなり動作が緩慢になる、よだれが垂れる、など不快な症状が起こります。
近年は、薬剤性パーキンソニズムをあまり起こさずに抗幻覚妄想作用や催眠鎮静作用を示す薬剤も登場しました。非定型抗精神病薬または第2世代抗精神病薬と呼ばれる薬剤です。もちろん過剰に投与すれば上記のような副作用を起こしかねませんが、旧来の抗精神病薬と比較すると随分気軽に(不快な副作用を起こさずに)使うことができるようになりました。例えば認知症患者さんの困った周辺症状(暴力、妄想、夜間の徘徊など)によく使われるようになりました。
しかし、薬剤性パーキンソニズムのような副作用が目立たなくなった一方で、その他の副作用、特に長期的に服薬した場合の副作用がクローズアップされるようになりました。特に様々な身体的合併症の懸念が浮かび上がってきたのです。
精神科病院に勤務する内科医である長嶺敬彦先生はその著書『抗精神病薬の「身体的副作用」がわかる』にサブタイトルとして”The Third Disease”=『第3の病気』と名付けました。その由来としては、統合失調症患者さんは3つの病気と戦わなくてはならない、一つ目は統合失調症、二つ目は周囲からの偏見、三つ目は抗精神病薬による副作用である、ということなのです。なるほどこれは言い得て妙です。統合失調症のように治療しなければ社会で生きていくことができなくなる病気の場合はそれもやむをえない場合がありますが、それでもできるだけ避けなければなりませんし、あまりメリットがないのに漫然と使用するべきではありません。
今回は、そのような抗精神病薬の身体的副作用について、最近のエビデンスはどのようなことを示唆しているのか、その一部をかいつまんで読んでみましょうか。

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