昨年11月5日にニューヨークタイムズのオピニオン・ページで、コラムニストのニコラス・クリストフが「薬、強欲、そして少年の死(Drugs, Greed and a Dead Boy)」という記事を書いています。
記事そのものは、米国の製薬業界が合衆国憲法の修正条項で保障された言論の自由を根拠に、適応外処方で薬のマーケティングを行う権利を手に入れようと次々に訴訟を起こし、裁判所の容認判決が続く動きを牽制するものですが、その冒頭で紹介されている事例が衝撃的でした。
アンドリュー・フランセスコ君。活発で愉快だけど、落ち着きがなく手の焼ける子どもでした。5歳で精神科医にリタリンを処方されました。その後も長じるにつれ、学校での問題行動のため強い抗精神病薬を何種類も飲むようになっていきます。それでも効果がなく薬はさらに増やされて、同時に本人の精神状態は荒れる一途をたどります。そしてついに15歳のある日、長年飲み続けていた沢山の薬のツケがやってきます。セロクエルで稀に起こる合併症に見舞われたアンドリュー君は、金曜日にはいつもどおりに学校へ行ったのに、日曜日には脳死となってしまいました。
父親のスティーヴンさんは、製薬会社の幹部です。”Overmedicated and Undertreated"という手記を書いて、父親として、また業界インサイダーとしての立場から、患者の健康や生命よりも利益を優先させている製薬業界や保険業界の実態を告発しました。その後もネットやメディアを通じて問題提起を続けています(アンドリュー君につけられていた診断名は記事からは不明ですが、このお父さんは息子への治療内容に疑問を持つことはなかったのか、ちょっと不思議な感じもしますが)。
クリストフは記事で、1990年代半ばから2000年代の終わりまでで子どもへの抗精神病薬の処方が7倍に増加していることや、現在すでに精神科医による子どもへの処方の8割が適応外処方であること、ジョンソン&ジョンソンがリスパダールの不正なマーケティングで20億ドルを超える罰金と和解金を支払ったこと、それでも違法な当該マーケティングの責任者は同社でさらに出世したことなどを指摘し、適応外処方マーケティングへの規制緩和に慎重を呼びかけています。
「情緒またはメンタル面に障害がある子ども達は、製薬会社の金脈となってしまった。子どもに出される精神科薬だけで年間数十億ドルの売り上げと、マーケットは大賑わいとなっている」
強い既視感に、絶句してしまいました。だって、これって、私が英語ニュースを読み始めてまもなくの2008年に、英米のメディアが大騒ぎとなった問題とそっくりそのままなのでは……。あの頃、米国では上院議会の財務委員会が調査に入るほど、ほとんど社会問題の様相を呈していたはずなのに……。
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