金曜夜10時からのTBSドラマ「わたしを離さないで」が3月18日の第10話で終了しましたが、ご覧になった方もあったでしょうか。
原作は、カズオ・イシグロの同名の小説。移植臓器の需要に応えるためにクローン人間を作り育て、管理・消費する国営プログラムが稼動している社会が舞台という、衝撃的な作品です。2011年に映画化もされています。
イシグロの原作小説"Never Let Me Go”が刊行された2005年といえば、本誌2015年10月号の「『子どもをデザインする親』たち」で紹介した「救済者兄弟」(病気の子どものドナーとして体外受精と遺伝子診断で生まれてくる弟や妹)が現実の世界でも生まれ始めた頃に当たります。
私は11年に翻訳版で小説を読み、その直後に映画を見ました。その当時に書いた拙ブログのエントリーは文末にリンク1)してみましたが、原作小説を読んだ時に印象的だったことの一つは、主人公3人の関係性が大きく変わり始める大事なシーンが宗教墓地での出来事に設定されている、ということでした。
彼らが何度かの臓器提供を経てついに生命を終える時、それは「死ぬ (die)」のではなく、「終了する(complete)」と表現されます。「使命」を「終了する」のです。そんなふうに「普通の人」とは違う存在であり、「外の世界」では人として存在していない彼らには、「普通の人」のように墓地に埋葬されることはないのでは? と、その宗教墓地のシーンから私は考えたのでした。
彼らは利用可能な資源の集まりに過ぎず、世の中は彼らを魂すらもたない存在と見なしている(魂の有無が問題となるところに「宗教」がわざわざ出てくる意味もあるのだろうと思いました)のだから、葬儀や埋葬をされるべくもなく、彼らの死後の肉体はバイオ資源として解体され、それぞれパーツごとに有効に利用されていくだけなのだろうなと、原作には描かれていないシステムの末端部分を想像したのでした。そして、そのことに、人間の中で「いのち」が色分けされていく、ということのリアリティがずしりと感じられて、しばし呆然となりました。
TBSのドラマにも、原作では具体的に説明されていないあたりを逸話として追加あるいは暗示する場面や、原作とはまるで違っている展開がいくつもありました。毎回それらについて考えをめぐらせながらドラマを見ていたのですが、3月上旬、第9話の放送直前に、英国から衝撃的なニュース2)が流れてきました。
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