川の流れのように
若かりし頃に読んだ本を再読してみると、まったく違った印象だったり、新しい気づきや教訓を受けとったりすることがあります。
先日、学生時代に読んだヘルマン・ヘッセの小説「シッダールタ」を30年ぶりに読み返してみました。当時はこの本の感想文を長文で書きましたので、本は熟読していたはずなのですが、三十年以上経過した今、内容は思い出せませんでした。
まあ、記憶ってそんなものですよね。
この小説の中で、川のほとりで主人公シッダールタが開眼していく、という印象深いシーンだけはぼんやりと覚えていました。しかし、読み返してみると、今になって受け取る意味合いは、学生当時とは異なるものになっています。
故郷を捨て、仏陀に帰依する道を捨てて、渡し守のいる川にたどり着いたシッダールタ。その川を渡してもらい、新しい世界へ旅立ちます。
それから二十年以上が経過し、シッダールタは変わり果てた姿で川へ戻ってくることになります。渡し守に再会したシッダールタは外見だけではなく、ものの考え方や感じ方にも大きな変化がみられていました。
田舎から上京したぼくにとって、意気揚々と旅立った青年が、夢破れて故郷へ戻ってくる姿を彷彿させる展開です。故郷に立ち帰って長年変わらずそこにある景色を眺めてみても、若かりし頃に感じたものとは、かけ離れたものになっているものです。
川に戻ってきた時にはすでに、青春とは同じところにはいないものだ、ということでしょう。言い古されたコトバですが、年を重ねることで、わかるようになることがあるのです。
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