この記事を書き始めたのは11月11日の朝。よもやの「トランプ大統領」誕生の衝撃から、まだ2日という生々しさの中で書き始めた記事です。
日本では、大統領選と同時にいくつかの州で行われた住民投票によって、医療用麻薬や嗜好用麻薬が合法化されたこともニュースになっていますが、私が兼ねて注目していたのはコロラド州での医師による自殺幇助(PAS)をめぐる住民投票でした。おそらくそうなるだろうと予測していた通り、オレゴン州の「尊厳死法」にならった法案が可決されました。
さらに16日には、すでに1度目の投票で合法化法案が可決されていたワシントンDCの議会で2度目の投票が行われ、最終的に可決されました。首長は否決権を行使しないと言っているので、法案は法律となる見込み。
これで、米国で医師による自殺幇助を合法とする行政区は、オレゴン、ワシントン、モンタナ、バーモント、カリフォルニアの5州から、コロラド州とワシントンDCが加わって、一気に7箇所となります(ただしモンタナは、2009年12月31日の州最高裁の合憲判決によるもので、州法があるわけではありません)。
ニュージャージー州でも3日に法案が下院議会を通過していますし、ニューヨーク州やマサチューセッツ州などでも合法化に向けた動きが活発化しており、「死ぬ権利」合法化運動は大きなうねりを見せています。
一方、コロラド州の住民投票をめぐっては、もう一つ、気になる話題があります。「コロラドケア」と通称される州民皆保険制度の提案は、住民投票で否決されたとのこと。
被用者保険や個人保険を中心とする米国の医療保険制度改革「オバマケア」では依然として高額の保険料を負担できない無保険者が多数でてしまうことから、個人保険中心の制度設計から脱し、非営利の運営機関に一本化して公的な責任において全ての人に保健を保証しようというのが「コロラドケア」の提案でした。保険会社や製薬企業から猛反発が起きていたようです。
結果的に、コロラド州民は、医師による自殺幇助の合法化にはYES、全ての人に医療を保証する提案にはNOと答えたわけです。
ううむ……。なんだか、とても象徴的な気がします。「日本には国民皆保険というすばらしい制度があるから、まったく別の話」と言われる方も多いのですが、相次ぐ制度改正を眺めつつ、果たして本当にそう単純な話なのだろうか……と、考えないでもありません。
私はかねてから、安楽死や医師による自殺幇助など「死ぬ権利」問題は、単に「いかに死ぬ/死なせるか」という終末期医療の問題の枠組みで捉えたのでは本質を見誤ってしまう、と考えてきました。それはまず「医療のあり方」そのものの問題であり、さらには「医療の問題」という枠組みを超えて「グローバルな政治や経済の問題」「社会の問題」という枠組みの中で、言い換えれば「社会で(世界で)何が起こっているか」という大きな枠組みの中で位置づけて眺めなければ、コトの本質を見誤るのでは、と思うのです。
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