先月号の記事「医療的ケアを必要とする子どもたち、重症児者と家族の『地域生活』の実態と課題」の最後の下りで、「ケアラーへの権利擁護としてのケアラー支援」という考え方について、簡単に触れました。
「地域医療」に携わっておられる専門家にこの視点があるのとないのとでは、病気や障害を持って地域で暮らす人と家族の生活はまるで違ったものになる可能性があるくらい、これは大切な視点だと私は考えています。そこで今月は、海外のケアラー支援について、また一般社団法人日本ケアラー連盟(私も理事の一人です)の活動について、書いてみたいと思います。
何度かこれまでの記事の中で触れましたが、今年の秋に30歳になる我が家の一人娘、海(うみ)には、出産時の低酸素脳症のため重症心身障害があります。 乳児期の育児は、まるで心身の限界を日々「これでもか」と試され続けているような過酷さで、私は娘が2歳の時に大学教員の仕事を辞めざるをえませんでした。当時は、市役所の福祉課に相談しても「障害児はみんな母親が世話していますよ」と冷たく返される時代でした。 娘は6歳から重症児者施設で暮らし週末に帰省する生活となりましたが、私は施設に入れてしまった罪悪感とともに「なぜ母親だというだけで私は自分自身の人生を生きることを許されなかったの?」というつぶやきを、ずっと抱えてきました。
その間の体験や母親としての思いを綴った2冊の手記を機にライターの仕事をいただくようになり、やがて仕事を通じて英語圏の介護者支援の情報と出会ったのは、宿命だったのかもしれません。
欧米を中心に全国レベルの介護者支援団体が多数あり、ケアラーへの情報と支援メッセージを発信しながら、実態調査などを通して行政に支援を働きかけています。また毎年「ケアラーズ・ウィーク(介護者週間)」を開催して、パワフルな啓発活動を展開します。活動内容は様々ですが、日本ケアラー連盟も加盟する国際ケアラー連盟(IACO)には現在、英、米、豪、仏、カナダ、フィンランド、インドなど13カ国の介護者支援団体が加盟しています。
私が海外の介護者支援について初めて知ったのは2007年でした。6月に『介護保険情報』という雑誌の連載で「英国の介護者支援」という記事を書いています。 そこで「介護者アセスメント」について書いているのは以下。
充分に眠れていますか? ストレス、不安、落ち込みは? あなた自身の健康状態は? 一週間のうち介護に使う時間は? 緊急時に頼れる人は? もう続けられないと感じていますか? 仕事と介護の両立は大変ですか? 朝から晩まで自分の好きなように過ごせた日は、いつが最後でした?
日々自分のことは後回しにして家族を介護している人の心に沁みる、こんな問いが並んでいるのは、英国の介護者支援団体Carers UK -the voice of carers のHPである。英国では2000年のCarers Actにより、各地方自治体に対して、介護者の希望があれば、介護者自身のニーズ評価アセスメントを行うことが義務付けられた。先の質問は、Carers UKの情報提供ページで、アセスメントを受ける介護者が予め整理しておくとよいと勧められるポイントの一部。
Carers UKの解説によると、介護者が16歳以上であれば、介護される人がソーシャルサービスの利用を望んでいなくても介護者アセスメントを受けることができる。患者の退院に備えた「介護するつもり」でも可。ソーシャルサービスに直接電話で申し込むか、GP(かかりつけ医)または保健師に連絡を依頼する。目的は、介護と自分自身の生活のバランスをとり、介護者自身のニーズに対して支援を受けられるようにすること。例えば掃除や洗濯の手伝いがあれば、または通院や通勤にタクシーが使えれば、または安心のための携帯電話があれば介護が続けられるのであれば、それらも介護者サービスの具体例だ。アセスメントを行う人は介護者が介護役割を望んでいるとか、続けたがっているとの予見に立って話を聞いてはならない。地方自治体には介護者サービス提供の認否基準を明らかにすることが求められており、ソーシャルサービスは財源や資源の不足のみを理由に介護者サービス提供を拒むことはできない。

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