地域医療ジャーナル

2017年07月号 vol.3(7)

ポリファーマシーをめぐる問題とヘルスリテラシー

2017年06月22日 11:40 by syuichiao

 医療者に求められている役割として、ポリファーマシーへの関わりが注目されている。ポリファーマシーというのは端的に言えば、処方薬の多剤併用に関わる問題群のことである。最近では、ポリファーマシー関連の書籍が多数出版され、医療者向けの専門誌でも、特集が組まれることが多い。また様々な医学、薬学系学術団体が主催している学術大会でも、多数のポリファーマシーに対する取り組み発表や、シンポジウムが開催されている。

 注目を集めているポリファーマシーではあるが、その定義は曖昧である。先ほど処方薬の多剤併用と述べたが、いくつかの疫学的研究では5剤以上の薬剤使用と定義している。しかし、近年では "医学的な必要性をこえる薬剤使用”というような定義にシフトしつつあるように感じている。[1][2]

「ポリファーマシー対策」と銘打ったコンテンツ(書籍なり、講演会なり)が関心を集める中で、本稿では、別の視点でこのテーマを取り扱いたいと考えている。 "ポリファーマシー=悪”という価値に対して懐疑の目を向け、そこから薬物治療の妥当性を考えるための新た方向性について示したい。

[薬剤数が多いことは不適切な薬物治療なのか]

 冒頭述べた通り、ポリファーマシーとは5剤以上の薬剤使用と定義されることが多々あるが、これは5剤を超えると、死亡や機能障害、転倒、虚弱(フレイル)のリスクが増加すると言う疫学的研究が根拠の一つになっている。[3]

 とはいえ、薬剤数と予後悪化の関係が因果関係かと問われれば、必ずしもそうではない。薬をたくさん飲んでいる人は、それだけ多くの疾患を抱えているという事(これを多併存疾患と呼ぶ)であり、裏を返せば、薬を飲まない人に比べてそもそも予後悪化リスクが高いといえる。つまり、あくまでも見かけ上の相関関係にすぎない可能性がある。

 また、ポリファーマシーだから、その薬物治療が不適切というわけではない。たとえ1剤しか投与されていなくても不適切な処方はあるだろうし、多剤併用がなされていたとしても、その患者にとっては大事な薬物治療という事も多々ある。

 例えば、外来診療において、就学前児童に対する抗菌薬の使用は実に66%を超えると言われており、その38%が3世代セフェムである。[4] こうした薬剤使用の多くが不適切処方であることは容易に想像がつく。たとえ薬剤数が5剤以下であろうが、非細菌性上気道炎に対する抗菌薬使用は不適切と言うより他ないだろう。一方でガイドラインに準拠した治療によって薬剤数が5剤を超えた場合、それはポリファーマシーではあるかもしれないが、必ずしも不適切とはいえないかもしれない。つまり、薬剤数と不適切性が相関しないケースも多々ありうる(図)

 

(図)薬剤数とその治療の不適切性

[参考文献] 

[1] Expert Opin Drug Saf. 2014 Jan;13(1):57-65PMID: 24073682
[2]患者さん中心でいこう、ポリファーマシー対策 -意思決定の共有と価値観に基づく医療の実践. 日本医事新報社 (2017/4/22)
[3]Gnjidic D.et.al.J Clin Epidemiol.2012;65(9):989-95. PMID:22742913
[4]J Public Health (Oxf). 2017 Apr 27:1-7. PMID: 28453710

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