地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2017年08月号 vol.3(8)

ヘルスリテラシー~その概念とアウトカム〜

2017年07月21日 08:35 by syuichiao
2017年07月21日 08:35 by syuichiao

 近年、セルフメディケーションなど健康問題に対する関心の高まりや、インターネットを中心とした情報化社会の高度な発展により、医療・健康情報の増大と、多様化が進んでいるように思います。しかしながら、我々を取り囲んでいる情報のすべてが妥当な内容を含んでいるかといえば、必ずしもそうではありません。

 そのような現状において、必要な情報の収集と、それを吟味し、活用できる能力は、ますます重要になってくるといえるでしょう。医療・健康に関する情報は、時に人々の生活に大きな影響を与えることもあります。週刊誌の記事や、テレビ番組で取り上げられた医療・健康情報に国民の行動が左右される、そんなことは日常において決して珍しくはありません。

 本稿では、こうした医療・健康情報の取り扱いにかかわる能力、"ヘルスリテラシー”について、その基本的概念を整理しながら、ヘルスリテラシーの向上がもたらすもの、つまりそのアウトカムについて、若干の考察を加えたいと思います。

[ヘルスリテラシーとは何か]

 リテラシーとは、そもそも読み書き能力のことを示す言葉ですが、近年では、"自分に必要な情報を選び、活用する能力”という意味合いが強くなっています。健康情報に関するリテラシーは、一般にヘルスリテラシーと呼ばれますが、その定義は専門家によって若干異なっています。2012年にシステマティックレビューが報告されており、ヘルスリテラシーに関して12のコンセプトモデルと17種類の定義が挙げられました。[1その中でもWHOが定義している内容は以下の通りです

「The cognitive and social skills which determine the motivation and ability of individuals to gain access to understand and use information in ways which promote and maintain good health」「健康を高めたり、維持するのに必要な情報にアクセスし、理解し、利用していくための、個人の意欲や能力を決定する、認知・社会的なスキル」[2]

 様々な定義が存在するヘルスリテラシーではありますが、共通している内容は大きく以下の2つであると言われています。[3]

①健康情報にアクセスし、理解し、活用する能力
②それを可能にするために、組織や委員会がそれをサポートする能力

 ヘルスリテラシーコンセプトの統合モデル[2]によれば、その中核となるスキルは、健康関連情報にアクセスし、理解し、評価し、適用するという4つの能力とされています。

[ヘルスリテラシーの3つのレベル]

 リテラシーには以下の3つの分類があります。

1)Basic/functional literacy基礎的・機能的リテラシー
 日常生活における読み書きの基本的なスキル

2)Communicative/interactive literacy(伝達的・相互作用的リテラシー)
 様々なコミュニケーションから情報を入手したり、意味を導き出したり、変化する状況に新しい情報を適用するための、社会スキル及び高度な認知能力

3)Critical literacy(批判的リテラシー)
 情報を批判的に分析し、その情報を日常の出来事や状況に対して、より詳細にコントロールするために活用できる高度な認知スキル

 Don Nutbeamは、リテラシー3分類を踏まえたうえで、ヘルスリテラシーのコンセプトをさらに洗練させています。[4]

機能的ヘルスリテラシー:正確で有用性のある情報の取得
相互作用的ヘルスリテラシー:支援的環境での個人スキル向上
批判的ヘルスリテラシー:個人とコミュニティのエンパワーメント

 エンパワーメントとは社会や組織の構成員、一人一人が力をつけ、社会全体に大きな影響を与えることができるようになることを意味します。つまり、ヘルスリテラシーは、人の能力と状況による要求との関係から生まれる概念であり、個人のヘルスリテラシーの問題だけではないのです。特に、批判的ヘルスリテラシーは社会的決定要因を変化させる能力に他ならず、個人のスキルというよりは、きわめて社会的・政治的なスキルといえます。

「批判的リテラシー」はあくまで個人の情報評価、つまり批判的評価スキルというコンセプトではありますが、「批判的ヘルスリテラシー」という概念は、社会的、政治的アクションスキルという側面がかなり強く出ている点に注意が必要です。批判的リテラシーと批判的ヘルスリテラシーは混同されているケースも多々あると指摘されています。[4]

 ではこのヘルスリテラシー、それが「高い」とか「低い」とは、どういう事態なのでしょうか。そもそもヘルスリテラシーはどのように測定・評価されるのでしょうか。ヘルスリテラシーが高いこと、あるいは低いことが、いったい何をもたらすのか、以降で考察したいと思います。

[参考文献] 
[1]BMC Public Health. 2012 Jan 25;12:80. PMID: 22276600
[2]Health Promot Int. 1998;13:349–364. doi: 10.1093/heapro/13.4.349
[3]日本健康教育学会誌Vol. 22 (2014) No. 1. doi.org/10.11260/kenkokyoiku.22.76
[4]Health Promot Int (2000) 15 (3): 259-267.

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