地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2017年10月号 vol.3(10)

熱狂のあとに

2017年09月25日 22:56 by bycomet

アリセプトの熱狂

 当初は効果があると思って使われていたにも関わらず、あとになってから効果がなかった、むしろ有害だったというエビデンスが明らかとなり、裏切られたように感じる薬はしばしばあります。

 エビデンスは、時として冷酷なまでに人々の期待を裏切るものです。

 冷酷なエビデンス、と聞いてすぐに思い当たったのは、認知症治療薬です。

 アリセプト(一般名:塩酸ドネペジル)が発売されたのが1999年。認知症に対する治療薬がなかった当時、新薬を待ち望んだ人々と製薬企業の熱狂ぶりは、たいへん印象に残っています。エーザイ株式会社のニュースリリースを引用します。

アルツハイマー型痴呆治療剤「アリセプト」を新発売  

 エーザイ株式会社(本社:東京都、社長:内藤晴夫)は、1日1回投与型の軽度及び中等度のアルツハイマー型痴呆治療剤「アリセプト」(一般名:塩酸ドネペジル)を11月24日に新発売いたします。本剤は「アリセプト錠3mg」「アリセプト錠5mg」の商品名で販売し、ファイザー製薬株式会社(本社:東京都、社長:アラン・ブーツ)と共同で適正使用情報の提供を行います。販売形態は、1ブランド1チャネル2プロモーションで、売上はエーザイ株式会社に計上されます。  

 アルツハイマー型痴呆は、主に初老期から老年期に発症し、認知機能低下、行動の変化、さらには言語障害や運動機能障害へと症状が進行する疾患です。  

 アリセプトは、記憶と学習に関与している神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)の働きを阻害することにより、脳内アセチルコリン濃度を高め、軽度及び中等度のアルツハイマー型痴呆における認知機能の低下をおさえ、痴呆症状の進行を抑制します。  

 アリセプトは、エーザイが独自に合成した全く新たなアセチルコリンエステラーゼ阻害剤で、日米欧三極で開発が進められてきました。米国では軽度、中等度のアルツハイマー型痴呆治療薬として販売が許可され、1997年1月より発売を開始しました。欧州では、1997年4月に英国、同年10月にドイツ、翌98年3月にフランスで発売を開始し、1999年9月末日現在で世界41カ国で販売されています。

 

 当時、認知症はまだ「痴呆」と呼ばれていました。認知度が高まるにつれて「痴呆」という呼称は差別的で問題があるのではないか、という機運が高まり、病名まで変更されることになったのです。

 

新薬ができて病気がふえた

 当時は期待の新薬が大々的に宣伝され、製薬企業主導で認知症診断の講習会や一般市民の認知症啓発活動が、積極的に全国展開されていました。

 アルツハイマー病と診断されることも少なく、医療機関でも「ぼけるのは年なんだからしょうがない」と言われることも多かった当時、製薬企業の啓発活動(とくに医師の意識改革)によって恩恵を受けた人がたくさんいたことは間違いありません。

 しかし、こうした啓発活動が奏功したのか、同時にアルツハイマー病の診断が激増しました。

図 患者調査による総患者数の推移

 従来はずっと数千人だったアルツハイマー病患者数が、1996年から一点して増加傾向となり2万人に。2014年の統計では53.4万人まで増加しています。1996年からの18年間において、アルツハイマー病が26.7倍増加したということになります。

 この統計は、社会全体で認知症に対する意識が高まり、心配になった本人や家族が医療機関を受診するようになったことの表れでしょう。病気をなくすための薬には、病気の人をふやすという側面があるのです。

 2011年、アリセプトは医療用医薬品の国内年間売上高で首位(1,442億円)となっています。

 新薬ができ、宣伝が行われ、病気と診断され、薬が処方される。アリセプトを処方するために、アルツハイマー病と診断する、一体どこに問題があるのでしょうか?

 それが正当化されるのは、その先に有効な治療法が確立されている、という条件があるからです。 

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