「音楽療法でやってはいけないことは何ですか?」という質問をよく受けます。この問いに答えるためには、まず音楽療法の原理についてお話しする必要があります。
音楽療法とはわかりやすく言えば、音楽を使ってクライエント(対象者)のニーズに対応することです。言葉にすると簡単ですが、実際に行うのは容易なことではありません。
私はこれまで、医療福祉従事者、クライエント、ご家族、音楽療法士などから、音楽療法に関するさまざまな不満を耳にしてきました。それらをまとめると、次のように言えると思います。
音楽療法士がクライエントのニーズに対応する代わりに、自分たちのアジェンダをクライエントに押しつけている。
アジェンダとは「隠された意図」という意味で、ここではセラピスト自身のニーズや、思い込み、方針、信念などを指します。施設や病院側からのプレッシャーで、音楽療法士がそうせざるを得なくなっているケースもあるようです。また、本人が無意識で行っている場合もあるでしょう。
いずれにしてもこれは大きな問題です。音楽療法士がクライエントのニーズに対応していない場合、セラピーの効果が出ないばかりか、倫理的な問題につながることもあるからです。
この記事では3つの例を通じて、この問題について考えていきたいと思います。
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