地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2018年03月号 vol.4(3)

報告:ケアラー支援講演会(広島)

2018年03月24日 11:53 by spitzibara
2018年03月24日 11:53 by spitzibara

 先月号で告知させていただいたケアラー支援講演会「ケアする人をケアするということ」が2月17日午後、一般社団法人「日本ケアラー連盟」と「広島 重い障害をもつ人の生活を考える会」の共催で、広島市内のJMSアステールプラザ会議室で開催されました。参加者は120名。広島の方々のほか、名古屋、神戸、香川からもケアラー、医療関係者、福祉関係者、研究者など、さまざまな立場の方が集まり、おかげさまで満席の大盛況となりました。

 

 講演は、日本ケアラー連盟代表理事で日本女子大学の堀越栄子教授による「ケアラーが『助けて』と言える社会をめざして」。目次は以下です。

1. 誰もが介護する・される時代

2. ケアラーの実情を理解する

3. ヤングケアラー・ダブルケアラー・介護離職

4. ケアラー支援の市民の活動

5. 国・自治体のケアラー支援

6. 地域包括ケアとケアラー支援

7. ケアラー支援法、支援条例の取り組み

 

 詳細なデータを駆使した講演では、まず、いまや誰もが介護し介護される時代であること、さまざまな年齢のケアラーがさまざまな年齢の人を介護していること、ケアラーの心身の疲弊や孤立が虐待や殺人・心中につながっていることなどの実態が炙り出されていきました。

 特に多くの人に大きな衝撃とともに受け止められたのは、子どもが家族の介護を担って心身の健康や学校生活に影響が出ている「ヤングケアラー」の問題でした。たとえば、日本ケアラー連盟のインタビュー調査から紹介された声は、

 ぼくは祖母の介護とひきかえに、友だち、学業、仕事、そして時間を失った。ほんとうは自分を理解してくれる人がほしかった。

「だれか、助けて」と叫びたかった。看取ったあと、まわりからは「おばあちゃんは、孫に介護してもらって幸せだったね、といわれたが、ぼくが本当にほしかったのは、僕と祖母の幸せが両立できる生活だった。

 

 また、介護のために仕事をやめた人や介護をしながら働いている人がそれぞれに抱えている問題に触れた後で、さいたま市や北海道栗山町、岩手県花巻市、千葉県など市民による支援活動と、先進的な自治体の取り組みが、紹介されました。介護者支援法の実現を目指して活動してきた日本ケアラー連盟では、新たに地方自治体による支援条例の制定も平行して目指していこうとの活動方針を立てていることも話されました。

 最後に英国を中心に海外のケアラー支援の実情が紹介されましたが、そこでケアラー支援の考え方が変化してきているとして紹介された海外の研究者による以下の指摘は、まだまだその変化をこれから起こしていかなければならない日本の私たちにとって極めて重要だと、私は強く感じたところです。

① ケアラーは、要介護者をケアするための存在(主たる介護資源)

② ケアラーは、介護の専門職の協力者(専門職の協働者)

③ ケアラーは、よい介護のために支援する相手(援助の対象)

④ ケアラーは、あたりまえの社会生活を営めるように支援すべき独立した個人(一人の市民)

                 Twigg.J., & Atkin, K. (1994)

 

 講演の後、安佐南区で男性介護者の会「四木の会」を立ち上げて既に8年活動しておられる代表の戎世伊次さんと、17年1月に安佐北区でケアラーズカフェはぴねすを始められた北川朝子さんが、それぞれの活動について話されました。実際に支援活動をやってきた人の熱のこもった言葉は来場者の皆さんに訴える力がありました。

 講演の中で「ヤングケアラーという概念を知ったことで、介護している子どもに気づくことができるようになった」という学校の先生の言葉が紹介されていましたが、今回の講演に来てくださった方々が「ケアラー支援」という、これまで考えたことがなかった概念に触れて、よい意味で大きく揺さぶられ、さまざまな思いが掘り起こされていることが感じられる、熱気に満ちた会場でした。

 ご来場いただいた皆さま、準備段階でさまざまにお力添えくださった方々、ありがとうございました。

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