地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2018年05月号 vol.4(5)

強制不妊手術は「過去の出来事」でしょうか?

2018年04月28日 15:14 by spitzibara

 このところ、かつて「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とした優生保護法(1948年から96年)下で障害のある人々に行われた強制不妊手術の実態が、次々に明るみに出て新聞紙面をにぎわせています。被害者は、今回の大きな動きの前に公的な統計となっていただけでも約16500人。約7割が女性と言われています。

 この問題については、長らく研究者や市民団体によって資料調査とともに啓発活動や被害者の発見と支援が続けられてきましたが、行政もメディアもほとんど反応しませんでした。ようやく事態が動き始めたのは、2015年。被害者の一人、宮城県在住の飯塚淳子さん(仮名)が2015年6月に日本弁護士連合会に人権救済の申し立てを行い、日本弁護士連合会は2017年2月22日に「旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶に対する補償等の適切な措置を求める意見書」を出しました。この間、2016年3月には、国連女性差別撤廃委員会から日本政府に対して、強制不妊手術についての調査、被害者への賠償、加害者の処罰などを求める勧告が出ていますが、政府は当時は合法であったとの立場を貫き、対応しませんでした。

  さらに昨年は、長年地道に調査を続けてきた研究者が神奈川県立公文書館で当時の不妊手術に関する記録資料を発見し、日本における優生手術の具体的な状況が初めて明らかとなりました。その直後の今年1月、飯塚さんとは別の宮城県の被害者が国を相手取って損害賠償請求の訴訟を起こし、やっとメディアが動きました。積極的に情報公開する地方自治体も出てきており、それらの情報から、国や地方自治体、医学界、メディアまでが一丸となって推進していた実態がつぶさに明らかになりつつあります。法律の対象とならないはずの人たちに対して、単なる社会的偏見に基づいて、ずさんな審査で行われていたケースも相次いで報告されています。

 しかし、その一方で、連日の報道にネットで寄せられるコメントには、まさにかつての強制不妊手術推進施策の背景にあったのと同じ考え方がそのまま披瀝されています。そこに並んでいるのは、「子どもを生んだところで、どうせ育てられないのだから、子どもを生む機能など障害者には無用」「産まないで済むようにしてあげるのが本人の最善の利益」といった論理。まさに、あの「アシュリー事件」で繰り返されていた正当化そのまま……。この問題は決して「過ぎ去った過去の出来事」ではないのだなぁ、と改めて痛感しているところです。

 地域医療ジャーナルの読者の中にも、強制不妊手術を「とっくに過去の出来事」と考えておられる方もおられるかもしれません。しかし、私がこれまでブログで拾ってきた情報の中からも、いくつかの国でごく最近まで、あるいは今なお障害者や貧困層や女性囚人に強制的な(あるいは誘導的で事実上強制的な)不妊手術が行われている可能性が否定できません。

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