はじめに
今回から新連載スタートです。医学論文というと、難解(※1)で、とっつきにくい(※2)というイメージがありますね。
※1:本当に難しいのでその認識は正しい。
※2:われわれを遠ざけるかのごとく英語で書かれているものが多く、その言語の違いからとっつきにくいことこの上ない。
医学論文の読み方を解説している書籍は多々ありますし、ネット上でも論文の読み方を勉強できるサイトが閲覧できますが、そうはいってもやはり統計の話が出てくると自然と視野が暗くなり(拒絶反応による閉眼)、気づいたら時間が過ぎていたり(睡魔にやられたと思われる)、読んでいたはずの医学書は目の前から忽然と姿を消し(放り投げたと思われる)、PCの画面は真っ暗になっている(シャットダウンしたと思われる)…ということもあるのではないでしょうか。
そんなわけで、この連載では、なるべく堅苦しくならないよう、笑いを交えながら(※3)、連載1回につき、論文1本を丁寧に吟味していこうと思います。
※3:筆者が笑いながら執筆したというだけで読者が笑えるとは限らない
私が普通に解説しても、おもしろくもなんともないので、架空のキャラクターをつくり、彼らに論文について語ってもらおうと思っています。舞台は薬局、登場人物は下記のとおり。
登場"人物"というか、登場"ねこ"です。ゆるキャラは全人類に愛されるに違いないという私の認識(誤認かもしれない)のもとに、彼らに活躍してもらおうと思っています。
では、記念すべき第一回、『ねこでも読める医学論文「認知症とDHA」』をお楽しみください。
ねこでも読める医学論文 第1回「認知症とDHA」
みに丸「あー、つかれたつかれた。一包化(※4)ばっかりでぼくのキレイな爪が割れそうだぁ…。さぁて、お昼ごはんは新発売のカップ麺~♪ ボス~、休憩室のお湯は沸いてますか~?ラララ〜♪」
※4:一包化とは、錠剤やカプセルをプチプチと包装から取り出して、用法ごとにパックする調剤方法である。取り出しにくい錠剤をプチプチしているうちに、爪が痛くなってきて悶絶する薬剤師の姿は薬局でしばしばみられる光景である。
みに丸「おやっ!なんですか、この山積みの商品は!?サプリメントかぁ…。ちょっと、ボス~。これからカップ麺を食べるから、どかしてくださいよ。」
はかせ「ああ、すまない。今朝、本社から届いたんだ。自社製品らしくて患者さんに猛プッシュしなさいだとさ。どうかしてるよまったく…。けしからんッ!」
みに丸 「わあ!急に机を叩かないでくださいよ。血の気が荒いなぁ…。なにを怒ってるんですか」
はかせ「よく見てみなさい。"もの忘れが気になる方に"だとさ。」
みに丸 「なぁんだ、ボスにぴったり…」
はかせ「ん!?なにか言ったかね?」
みに丸 「あぁ、耳も遠くなってしま…イタッ!なんで叩くんですか!?パワハラだ!DVだ!」
はかせ「あー、うるさいうるさい。DVはドメスティックバイオレンス(家庭内暴力)の略だ。私はきみと家族になった覚えはない。」
みに丸 「なんだ、ちゃんと聞こえてたんですか…。んで、なにがけしからんのですか?」
はかせ「もの忘れがどうこうって文言についてだよ。認知症の予防になるとでも思わせる内容だ」
みに丸 「いいじゃないですか。認知症は社会問題となってますし、ちょっとした物忘れを気にする方も多いですからね。こりゃあ、売れるぞぉ~。うしし」
はかせ「こら!ニタニタするんじゃない!私は本当に効果があるのかということを言っているのだよ!」
みに丸 「あれぇ?ボスはな~んにも知らないなぁ。DHAって頭に良いんですよ。ぼくはテスト間近になると、魚の目玉をたくさん食べまくってましたよ。その結果、こうして立派な薬剤師に…」
はかせ「立派かどうか知らんが、目玉をたくさんってきもちわるいな…」
みに丸 「そうなんですよ。子供のころから魚の目玉をお皿にどっさり盛り付けられて、気持ち悪くて泣きながら食べてました。食べ残すと母ちゃんにぶたれるので。」
はかせ「そ、それは大変だったな…。はじめてきみに同情したよ」
みに丸 「いやあ、でもぼくのことを思いやってのことだし…。『あなたはちゃんと賢くなって良い大学に行くのよ。お父さんみたいになっちゃダメよ』って。」
はかせ「うっ。今度はきみのお父さんに同情したよ。」
みに丸 「父ちゃんは『オレはロックスターになる』って、勉強しないで放浪してて大学に行ってないんですよ。結局、ふつうに会社に就職しましたけどね。上司にいびられ、母ちゃんにも相手にされずに、よくひとりで晩酌してたなぁ…」
はかせ「そうか…、きみのお父さんに一杯おごりたい気分だよ」
みに丸 「あー、ダメダメ。最近、父ちゃんは肝臓が悪くて、お酒禁止されてるから」
はかせ「ますます同情するよ…。きみの家庭の話は置いといて、DHAの話に戻そう。まさか、きみはDHAが豊富な魚の目玉をたくさん食べていたから薬剤師になれたと思っているんじゃあるまいな?そんなのなんの証拠にもならんぞ」
みに丸 「ええっ!!!?ぼくは記憶力が格段にアップして、こうして賢いイケメン薬剤師になれたというのに!」
はかせ「きみは頭だけじゃなくて目も悪いのかい?鏡を見てごらんよ。どこにイケメンがいるっていうんだ…。すっとぼけた間抜け面が…イタッ。こ、こら!上司を叩くんじゃない!DV反対!!」
みに丸 「うるさいうるさい!ぼくは納得してませんよ。DHAが効かないって言うんなら、証拠を出してください!証拠を!!」
はかせ「こら、机を叩くんじゃない。血の気の荒いヤツだなぁ。」
みに丸 「ぼくの成功体験をもとに、物忘れが気になるおじいちゃん・おばあちゃんにDHAをオススメしちゃいけない証拠を出せぇええ!!」
はかせ「わかったわかった。では、このDHAサプリがウリにしようとしている認知症予防効果について検討した論文を見てみようか」
みに丸 「ヘぇ〜、そんなものがあるんですね。どれどれ…。げっ!英語じゃないですか!ぼくは日本男児ですから英語なんて読めませんよ。まったくわかりません!」
はかせ「文句の多いヤツだなぁ。わかりやすく一枚の図解でまとめてみたからつべこべ言わずに見たまえ」
文献[1]を基に作成
みに丸 「おおっ!これは見やすいですね。しかも日本語だぁ!これならわかりますよ。でも…、えーと…。あうとかむ…?えーでぃーえーえす…しーでぃーあーる…?なんですか、この暗号は…ブツブツ」
はかせ「おい、しっかりせい!君は魚の目玉で育った賢いイケメン薬剤師なのだろう?ひとつひとつ解説していくからちゃんと聞くように」
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