地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2018年10月号 vol.4(10)

ねこでも読める医学論文 番外編「ねこと学ぼう、医療倫理」

2018年09月25日 02:30 by ph_minimal
2018年09月25日 02:30 by ph_minimal
はじめに
 
 今月は毎年好例の特集号ですね。医療倫理がテーマということですが、今回も彼らに登場してもらおうと思います。
 
 
 彼らが経験した症例を医療倫理的な観点からディスカッションしてもらうという内容です。では、参りましょう!
 
 
 
ねこでも読める医学論文 番外編「ねこと学ぼう、医療倫理」
 
<医療倫理とは>
 
はかせ「今回は特集号ということで医療倫理について語り合おうじゃないか。」
みに丸「は?なんですか、特集号って…。」
はかせ「ん?はて…?私は今、そんなことを言ったかね…?」
みに丸「言いましたよ。"特集号"って。なんの特集なんです?」
はかせ「わからん…。ただ医療倫理について考えようという神の啓示を受けたのだ。」
みに丸「ボス…、大丈夫ですか?頭でも打ったのですか?」
はかせ「なんだその目は…。私はいたってマトモだぞ。」
みに丸「そうですか…。急に変なことを言い出すボスだなあ。」
はかせ「医療倫理っていうときみはどんなことを思い浮かべるかね?」
みに丸「難しいこと聞かないでくださいよ。ぜんぜんわかりませんよ。」
はかせ「いやいや、難しく考えなくていいよ。パッと思い浮かぶのはどんなことかい?」
みに丸「うーん…。そうだなぁ。延命治療とか安楽死とかですかね…。」
はかせ「私も真っ先に思い浮かんだのはそういう話だね。まさに"倫理的にどうなの?"と議論されている問題かと思うんだが、我々のような薬局薬剤師だと、あまり関わりのない領域だよね。ところで"倫理的に"ってどういう意味かと子供から聞かれたらどう答える?」
みに丸「え?ボス…、いまから子育ての予行練習ですか?まだ彼女もいないのに…。」
はかせ「やめろっ。それはきみにもブーメランとなって突き刺さる言葉だぞ。」
みに丸「ぐはっ」
はかせ「子供から聞かれたらっていうのは、簡単に説明しなさいという言葉の綾だよ。そのくらい察してくれよ、まったく…。」
みに丸「まあ、察した上で、あえて突っ込んでみたんですけど…イテッ。また暴力を…これぞ倫理的に問題となる行為…」
はかせ「上司をからかうのもどうかと思うぞ。で、話を戻すが、倫理的にってどういうことだろう?」
みに丸「うーん、人道的に…とか?」
はかせ「難しい言葉に置き換えないでくれよ」
みに丸「うーん、そう言われてもわからないなぁ。モラルと同じような意味だと思ってるんですけど…。よし、それじゃあニャフーの国語辞典で調べてみましょう。倫理とは…、"人として守るべき道"…だそうですよ。ぼくので合ってるじゃないですか。」
はかせ「むむっ。そ、そうか…。でもそれをわかりやすく説明しろって言われたら難しいよね」
みに丸「はい、いまいちピンときませんね。具体的じゃないっていうか…。」
はかせ「うむ。その"人として守るべき道"っていうのがどの道なのかが難しいんだよね。たとえば安楽死を希望する患者さんがいたとして、人として守るべき道ってなんなんだろうっていう話になる。」
みに丸「ううぅ…。重たい話は苦手だなぁ…。なにをどう考えればいいのかまったくわかりませんよ」
はかせ「私もだ。我々はそういう状況に直面することはほとんどないしね。でも、こういう悩ましい問題についてどう考えればいいのかっていうのは学んでおかなくてはならない。そこで、まず基本から勉強しよう。医療倫理の4原則[1]というのがあるらしいんだが知ってるかい?」
みに丸「なんですか、それ?」
はかせ「大昔に二人の哲学者が考案した原則だよ。ちょっとまとめてみよう。」
 
 
医療倫理の原則
文献[1],[2],[3]を基に作成
 
 
みに丸「余計に難しくなってきた気がするのはぼくだけでしょうか…。」
はかせ「言葉は難しいけど、考え方が整理されているね。」
みに丸「それはたしかに。倫理的にって言われてもよくわからないけど、こうやって示してもらえると考えやすいですね。」
はかせ「たとえば、末期がん患者さんが死にたいと希望した場合、その意思決定を尊重して安楽死…だなんて短絡的に結論することはできないということがこの原則を見ればわかると思う。その理由が"痛みに耐えられないから死にたい"というのであれば、疼痛コントロールが不十分なのかもしれない。最善の医療行為(善行・恩恵)が施されていないのかもしれない。今そこにある苦痛を取り除く(無危害)ことができるかもしれない。そして、そのような治療オプション(意思決定に必要となる情報)を患者さんに情報提供することも自立性の尊重の一環ということだね。だから、安易に患者さんの希望を受け入れることが自立性の尊重ではないということだ。」
みに丸「なるほど…。そのように具体例を示してもらえるとわかりやすいですね。でも、公正・正義っていうのがよくわからないなぁ。」
はかせ「平等な医療行為をっていう解釈でいいと思うよ。たとえば、初診時に『私は○○党の議員だ!』と申し出てきたとしても、その患者さんに施す治療は他の患者さんたちと同じであるべきだよね。」
みに丸「ああ、なるほど。地位や名声によって特別扱いするのは公正じゃないってことですね。」
はかせ「うん。まあ、著名な方だったら、プライバシーの配慮を強化するといった対応は必要かもしれないけど、他の患者さんたちを差し置いて、優先的に良い治療をっていうのはちょっと違うよねってことかな。」
 
 
<症例の提示>
 
はかせ「さて、せっかくだから症例検討会でもしてみるかい?倫理的観点も踏まえて、悩ましい症例について考えてみようじゃないか。誰か気になる患者さんはいるかい?」
みに丸「うーん…」
 
ガサガサ…ゴソゴソ…
(みに丸、薬歴棚を漁る)
 
みに丸「この患者さんですかね…。」
 
 
はかせ「なんだ、浮かない顔して…。ああ、ベンゾウさんか…。さてはあの件だね?」
みに丸「はい…。」
はかせ「あらためてあの症例についてきちんと振り返るのは大事なことだと思うよ。では簡単にまとめてみよう。」
 
 
猫山 勉象(通称;ベンゾウさん)
 
62歳 男性
 
<病歴>
高血圧、不眠症、不安神経症(不安障害)
 
<経過>
15年前より高血圧で降圧剤開始
10年前に妻と死別、職場でのストレスなどが重なり、不眠や不安の訴えにて安定剤、睡眠導入剤開始
2年前に定年退職
現在、一人暮らし。とくに生活に支障はなく困っていることはない。
 
<服用薬>
・アムロジピン錠5mg(アムロジン®)1日1錠 朝食後
・イミダプリル錠5mg(タナトリル®)1日1錠 朝食後
・エチゾラム錠0.5mg(デパス®) 1日6錠 毎食後
・ゾルピデム錠5mg(マイスリー®) 1日2錠 就寝前
 
上記4種類を継続服用していたが、処方変更あり
 
・アムロジピン錠5mg(アムロジン®)1日1錠 朝食後
・イミダプリル錠5mg(タナトリル®)1日1錠 朝食後
・エチゾラム錠0.5mg(デパス®) 1日3錠 毎食後
・ゾルピデム錠5mg(マイスリー®) 1日1錠 就寝前
 
アムロジピン、イミダプリル:降圧剤
エチゾラム:安定剤
ゾルピデム:睡眠導入剤
 
 
ベンゾウさんの訴え
「安定剤と眠剤の量を減らされてしまったんだ。いままでずっと同じ薬で調子がよかったのに、急に減らされたら不安だよ。先生にもとの処方に戻してもらえないか薬局から頼んでみてくれないかな?」
 
 
はかせ「まとめると、こんな感じだったね。」
みに丸「はい…。」
はかせ「おい、元気がないな。いつもの調子で頼むよ。」
みに丸「だって、ぼく、このあと先生に電話してベンゾウさんの要望どおり提案した結果、ボロクソに怒られたんですよ…。『せっかく減量について説明して納得してもらったのに余計なことをするんじゃねえっ』て…。うっ、ううぅ…涙」
はかせ「おいおい、泣くなよ。」
みに丸「ぼくは薬を減らされて患者さんが困っているから、電話したのに…。えぐっ、えぐっ…」
はかせ「ああ、また泣いてる…。たしかにこのようなジレンマがある事例では、倫理的観点のもとに考えてみる必要がありそうだ。とりあえず、涙を拭きたまえ。」
 
3分経過
 
はかせ「落ち着いたかね?」
みに丸「はい。でも、なにをどう考えればいいかさっぱりわかりませんよ。さっきの医療倫理の4原則で考えるんですか?」
はかせ「それもいいんだが、医療倫理の原則のもとに症例検討するのに有用な考え方があるのでそちらを紹介しよう。
 
医療倫理の4分割表
文献[3],[4]を基に作成
 
 
はかせ「薬局で問題となりそうなポイントを抜粋して、なるべくわかりやすく意訳してある。このチェック表に基づいて、ベンゾウさんの件について振り返ってみようじゃないか。」
 
 
 
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