音楽療法士として医療現場で働いていると、簡単に答えが出ない問題に遭遇することが多い。
「患者さんから贈り物を受け取ってもいいのだろうか?」
「自分が責任をもってみれないほど、多くのケースを受け持っていないか?」
「自分がグリーフ(悲嘆)になっているときに、患者さんやご家族をサポートできるだろうか?」
「音楽療法に関して、正しい情報を提供しているだろうか?」
これらの問いは、すべて倫理的な問い(ethical question)と言える。
私がこのような問いに初めて遭遇したのは、ノースカロライナ州のホスピスで音楽療法のインターンシップをしていた頃だった。
担当していた患者さんのひとりに、60代の女性がいた。末期がんの患者さんで、アパラチア山脈の山の中のキャンピングトレーラーにひとりで住んでいた。6カ月間毎週訪問し、彼女の好きな讃美歌を一緒に唄った。口数は少ない女性だったが、数か月の間に親しくなり、私をまるで家族のように扱ってくれた。
インターンシップが終わりに近づいたある日、彼女がいつになく真剣な顔で言った。「ささやかなお礼として、食器セットを受け取って欲しい」
青とピンクの花柄のお皿とマグカップのセットで、丁寧に食器棚に保管されていた。おそらくクリスマスや感謝祭など、特別な機会に使う大切な食器だろう。彼女の気持ちは嬉しかったが、患者さんから贈り物を受け取っていいのかわからなかったので、スーパーバイザー(教官)に相談することにした。
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