地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2019年02月号 vol.5(2)

格差社会における健康問題

2019年01月27日 13:56 by syuichiao
2019年01月27日 13:56 by syuichiao

 前回の記事、「社会的環境が人の健康状態を決定する―社会疫学のススメ」でもご紹介したように、生物学的な要因だけでなく、社会環境も健康状態に深く関連しています。その中でも所得、つまり世帯収入は健康の社会的決定要因を考えるうえで軽視できない要因です【1】。実際、1999~2014年における米国の税金のデータおよび、社会保障データを解析した研究【2】によれば、収入が少ない人の寿命は短く、逆に収入が多い人の寿命は長いことが示されています【図1】。

【図1】収入と余命の関係(JAMA. 2016 Apr 26;315(16):1750-66. PMID: 27063997より作成)

 この研究は、40~76歳の約14億人(平均53.0歳、勤労者の収入中央値、61175ドル/年)の観察人口を対象したものです。解析の結果、収入の上位1%の集団は下位1%の集団と比較して、男性においては14.6年[95%信頼区間14.4〜14.8]、女性においては10.1年[95%信頼区間9.9〜10.3]、寿命が長いという結果でした。

  また、この解析において、高所得層では地域による寿命の差異はほとんどみられていませんが、低所得層では、ニューヨークやサンフランシスコに住んでいる人の方が、ダラスやデトロイトに住んでいる人よりも寿命が長いことが示されており、平均寿命が最も高い地域と、最も低い地域の間で、約4.5年の差がありました。

  所得がもたらす健康への影響を考えた時、大きく2つの影響路を考えることができます【3】【4】。貧困そのものが健康に悪影響を与えているという物質的困窮経路、もう一つは、自分に似た他人と自分の所得との格差(これを相対的剥奪[relative deprivation]と呼びます)によるストレスの増加が、健康への悪影響を引き起こしているという社会・心理ストレス経路です【図2】。

 

【図2】格差社会がもたらす健康への影響(J Epidemiol. 2012;22(1):2-6. PMID:22156290より作成)

 

 本稿では、収入や所得格差が健康にどの程度影響を与えうるのか、主要な疫学研究の結果をご紹介しながら、税制や社会保障などの制度設計と健康問題の関連について考察したいと思います。


【参考文献】
【1】Epidemiol Rev. 2004;26:78-91. PMID: 15234949
【2】JAMA. 2016 Apr 26;315(16):1750-66. PMID: 27063997
【3】J Epidemiol. 2012;22(1):2-6. PMID: 22156290
【4】医療と社会 2012 年 22 巻 1 号 p. 91-101. DOI; 10.4091/iken.22.91

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