みなさん、こんにちは。
この原稿を書いている今、インフルエンザが流行真っ只中です。今シーズンはかなり大きな流行になりそうです。
診療所の年間統計によると、インフルエンザの診療規模はかなり大きく、インフルエンザは専門のひとつと言ってもいいほど。日々の診療では、インフルエンザについての説明を、それもほとんど同じ説明を、毎日数えきれないほど繰り返します。
ところが、ぼくらの説明が市井の情報とは多少異なるもののため、混乱されているように見受けられる場面にしばしば遭遇します。
検査特性やベイズの定理、そしてエビデンスを熟知している読者のみなさんにとっては、すでに当たり前のことかもしれませんが、
- 流行期にはインフルエンザ迅速検査の意義は小さい。(検査結果に関わらずインフルエンザの診断となる)
- インフルエンザは自然に治癒する病気で、薬はなくても治る。
- 抗インフルエンザ薬は発熱期間を少し短くするだけで、発症者が服用しても重症化・合併症予防、伝染予防にはならず、リスクがなければ使わなくてもいい。
こういった科学的知見に基づく当たり前の説明が、なかなか通らないのです。まあ、「市場経済に基づく情報」にまだ太刀打ちできていない、ということなのでしょう。例えば、今シーズンではバロキサビルマルボキシル(ゾフルーザ)の話題で持ちきりになっています。もちろん、ぼくは処方しません。
診察室では、地道に説明していきたいと思います。
インフルエンザ治癒証明書問題
さて、以前から取り上げている、インフルエンザ治癒証明書問題。過去記事はこちら。
これも地道に説明していくしかない、と思っていますが、これまでとの大きな違いは厚生労働省が見解を出したことです。
今回は、その後の展開についてご報告したいと思います。
インフルエンザ検査や治癒証明書は求めないこと
ここであらためて、確認しておきましょう。
治癒証明書を発行してもらうためためには、インフルエンザ診断のための医療機関受診のほかに、登園・登校前にも医療機関を受診する必要が生じます。
この負担のしわ寄せは、親にのしかかります。子供の体調不良や受診のために仕事を休んだりする上、さらに治癒証明書の受診の負担が生じるわけです。インフルエンザ流行期の医療機関の待ち時間は大幅に長くなります。そして、待合室ではインフルエンザの患者ばかり。家族内発症リスクを含め、親の負担ははかりしれないものです。
さらに、これは保険診療となるため、貴重な医療保険の財源を消費することになります。これはもう、社会資源の無駄遣いといってもいいでしょう。こんなことを医療機関はずーーーーっとやってきたのですが。
2018年9月27日の第26回厚生科学審議会感染症部会では、職場や学校に対し「医療機関に季節性インフルエンザの治癒証明書や陰性証明書発行を求めることは望ましくない」との見解を示すことが明らかにされています。
これを受けて、厚生労働省ではあらためて平成30年度インフルエンザQ&Aにその旨が追記されました。
Q.19: 児童のインフルエンザが治ったら、学校には治癒証明書を提出させる必要がありますか?
「学校において予防すべき感染症の解説〈平成30(2018)年3月発行〉」によると、「診断は、診察に当たった医師が身体症状及び検査結果等を総合して、医学的知見に基づいて行うものであり、学校から特定の検査等の実施を全てに一律に求める必要はない。治癒の判断(治癒証明書)も同様である。」とされています。
なお、「保育所における感染症対策ガイドライン(2018 年改訂版)」によると、「子どもの症状が回復し、集団生活に支障がないという診断は、身体症状、その他の検査結果等を総合的に勘案し、診察に当たった医師が医学的知見に基づいて行うものです。罹患した子どもが登園を再開する際の取扱いについては、個々の保育所で決めるのではなく、子どもの負担や医療機関の状況も考慮して、市区町村の支援の下、地域の医療機関、地区医師会・都道府県医師会、学校等と協議して決めることが大切になります。この協議の結果、疾患の種類に応じて「意見書(医師が記入)」又は「登園届(保護者が記入)」を保護者から保育所に提出するという取扱いをすることが考えられます。」とされています。
読者コメント