お酒の摂取量と健康への影響について、1週間の平均飲酒量を横軸に取り、健康リスクを縦軸にとってグラフを描いた場合、「J」字型の関連を示した研究報告は少なくありません。つまり、飲酒量が多いことは健康状態の悪化と関連しますが、飲酒なしと比較すると、少しだけ飲酒する人で健康状態の良好な人が多いということです。“少量の飲酒はむしろ健康に良い”、などと言われる所以ですが、本ジャーナル2016年05月号 vol.2(5)掲載の『「酒は百薬の長」というのは本当でしょうか?』にも詳細がまとめられておりますので、ご参照いただけましたら幸いです。
本稿では、2016年以降、新たに報告された論文からの知見を踏まえながら、お酒と上手に付き合う方法についてまとめていきます。
【J字型の関連が示唆するもの】
飲酒がもたらす健康への影響について、日本人を対象としたコホート研究【1】が2018年に報告されました。この研究では、40~69歳の日本人102849例が対象となり、平均で18.2年追跡調査が行われています。
研究参加者は、アルコール摂取量に応じて「飲酒なし」「機会飲酒」「0~149g/週」「150~299g/週」「300~449g/週」「450~599g/週」「600g以上/週」の7つの集団分けられ、総死亡や癌、心臓病など、飲酒がもたらす健康への影響が検討されました。ちなみにビール(アルコール5%)500mlあたりのアルコール量は約20gです。したがって、缶ビールのロング缶を毎日1本飲む人では週に140g程度のアルコール摂取となります。
男性での主な解析結果について【表1】に示します。「飲酒なし」と比較して、「機会飲酒」や「450g/週以下」では、総死亡、心血管疾患、脳血管疾患のリスクは低下しており、「J」字型というより「U」字型の関連性が見られます。なお、女性においては「J字」型の関連が認められました。
【表1】飲酒なしとの比較[ハザード比(95%信頼区間)]参考文献1より筆者作成
ただ、こうした観察研究の結果を解釈する際には一つ注意が必要です。本研究で示されているのは、飲酒が健康状態を改善しているのではなく、お酒を飲める人で健康状態が良いことを示しているに過ぎない可能性があるからです。この点については、冒頭紹介した記事、『「酒は百薬の長」というのは本当でしょうか?』でも指摘されていました。つまり、不健康な人たちは飲酒を制限されている、もしくは飲酒できる健康状態にない可能性があり、「飲酒なし」という集団が必ずしも健康とは言えないのです。
病状により禁酒している人たちと、生活習慣として飲酒をしない人たちが、同じカテゴリに分類されているのだとしたら、このような混合集団とお酒が飲める健常集団を比較することで、飲酒者の健康リスクが相対的に低く示されることでしょう。
【週に100g以下でも死亡リスク増加?】
少量の飲酒が必ずしも健康状態を改善するわけではない、ということは同じく2018年に、2つの文献報告によって示されました。そのうちの一つ、高所得国19か国における3つの大規模データベース(Emerging Risk Factors Collaboration、EPIC-CVD、UK Biobank)を解析した研究結果【2】を見てみましょう。
この研究では、心血管疾患の既往がない599912例の飲酒者が解析の対象となりました。被験者は、1週間のアルコール摂取量に基づいて「0~25g以下」、「25~50g以下」、「50~75g以下」、「75~100g以下」、「100~150g以下」、「150~250g以下」、「250~350g以下」、「350g超」の8つの集団に分けられ、総死亡や心血管疾患のリスクが最小レベルとなる飲酒量の解析が行われています。
【参考文献】
【1】J Epidemiol. 2018 Mar 5;28(3):140-148. PMID: 29129895
【2】Lancet. 2018 Apr 14;391(10129):1513-1523. PMID: 29676281
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