昨年12月号の記事「世界の安楽死と医師幇助自殺の潮流 2」の「③米国では植物状態、最小意識状態の新たな診断ガイドライン:誤診率4割」で簡単に触れた、エイドリアン・オウェンの著書を読みました。
- 作者: エイドリアン・オーウェン,柴田裕之
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2018/09/19
- メディア: 単行本
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著者は神経科学者。ケンブリッジ大学のウルフソン脳画像センター、応用心理学研究ユニットの要職を経て、2010年からカナダ、ウェスタン大学脳神経研究所認知神経科学・イメージング研究部門のカナダ・エクセレンス・リサーチ・チェア。
読者の中には、fMRIなどの脳スキャン技術を用いて植物状態の患者との意思疎通を図る研究があることを知っておられる方も少なくないでしょう。植物状態と診断された患者さんに質問をして、答えがYESだったら自分がテニスをしているところを頭に思い描いてもらう(運動前野の活動が活発になる)、NOだったら自宅で部屋から部屋へと歩いているところを想像してもらう(海馬傍回が活性化する)といった方法で、外見からは意識がないとしか見えない患者さんの意識の有無を探り、意思疎通を図る研究です。
私がオウェンの研究について初めて知ったのは、ブログを始めた翌2008年のことでした。以来その研究について目に触れる範囲で追いかけてきました。ざっと以下のようなエントリーがあります(本書ではオーウェンと表記されているのですが、私自身は日本語ではオウェンと表記してきたので、この記事でもオウェンとさせてもらいますね)。
「植物状態」5例に2例は誤診?(2008/9/15)
植物状態の人と脳スキャンでコミュニケーションが可能になった……けど?(2010/2/4))
Hassan Rasouliさん、「植物状態」から「最少意識状態」へ診断変わる(2012/4/26)
Owen教授の研究で、12年以上「植物状態」だった患者に意識があることが判明(2012/11/13)
カナダの“無益な治療”訴訟で「Owen教授のアセスメントを」(2012/12/8)
Owen教授らの植物状態患者の意識検知に、ベッドサイド簡易法も(2013/3/29)
A・Owen教授らが論文を発表:「植物状態」の40%に誤診の可能性(2013/8/25)
A・オウェンらの植物/最小意識状態患者の意識に関する新論文(2013/11/2)
16年間「植物状態」とされた男性がヒッチコック映画に反応:オウェン教授チームの新論文(2014/9/23)
私はこれらのエントリーを書くたびに、この人の研究には人に対する温かいまなざしがあると感じて、どんどんオウェン先生のファンになっていきました(この記事の中でも何か所か、つい敬慕の念がこぼれ出て「先生」がくっついてしまいました笑)。2013年に上梓した拙著『死の自己決定権のゆくえー尊厳死・「無益な治療」論・臓器移植』(大月書店)でも、第2章2の「『意識がある』ことの発見」の項目で彼の研究について紹介しています(p.106-107)。そのオウェンの著書がみすず書房から柴田裕之訳で出版されたと知り、年金生活者はまず図書館に走りました。単なる科学者による研究報告をはるかに超える、深い思索の書でした。読後には年金生活者のくせに即刻アマゾンに向かいました。
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