情報を分かりやすく伝えるために、文字による説明だけでなく、図や表を添えることは多々あると思います。例えば、列車の乗換案内をする際、経路が複雑になればなるほど、『路線図』という視覚情報は、説明の理解に役立つものと考えられます。
インターネット上でも情報を視覚化した図表を目にする機会は多いと思いますが、情報やデータを視覚的に表現し、分かりやすく図形化したものを、インフォグラフィックス(infographics)と呼びます。インフォグラフィックスという言葉は、インフォメーション(Information)とグラフィックス(graphics)という単語を組み合わせた造語です。情報を素早く簡単に表現することを目的に、報道や教育など様々な場面で活用されています。
【見えないものを可視化する試み】
情報を視覚的に示すという手法は、何も新しい概念ではありません。歴史的には先史時代の洞窟壁画までさかのぼることができます。情報を伝達するうえで、見えないものを可視化するという試行錯誤そのものがインフォグラフィックスの歴史と言えるでしょう。
インフォグラフィックスの例として、しばしば取り上げられるのが、ナポレオンのモスクワ遠征に関するものです。1812年、フランスのナポレオン1世は、フランス軍を主体とした約60万の大軍を率いてロシアに侵攻しました。対するロシア軍は戦略的に退却することで、フランス軍を領内の奥深くに引きずり込み、焦土戦術によって食料の補給を断ちました。このロシア軍の戦術により、予想外に戦闘が長引いてしまいます。
結局ナポレオンは、冬が訪れる前に撤退を開始しますが、撤退するフランス軍に対して、ロシア軍のコサック騎兵や農民のゲリラが襲い掛かり、飢えと寒さで死亡する兵士が続出してしまいます。撤退過程でフランス軍だけでも将兵約37万人が死亡し、20万人が捕虜となる悲惨な戦闘となりました。
このモスクワ遠征の戦局を、フランスの土木技術者シャルル・ジョゼフ・ミナール(Charles Joseph Minard) がインフォグラフィックスで視覚化しました【図1】。軍隊の進行方向、通過した場所、死傷した兵士の数、気温の変化を2次元の図で表しています。
【図1】インフォグラフィック ウィキペディア【https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/29/Minard.pngより転載】
(進軍経路と軍団規模が視覚的に表され、図の下部には気温の推移が記載されている)
褐色の線で描かれているのは、左端のネマン川を出てから右端のモスクワにいたるまでの進軍経路で、線の太さは軍団の規模を表しています。モスクワ到達までにかなり細くなっていることから進軍が想像を絶する戦闘状態にあったことをうかがわせます。
また黒線の矢印の太さは、右のモスクワから左のネマン川へ撤退する途中の軍団規模を示しています。線の太さがみるみる細くなっていく様子が分かると思いますが、進軍当初60万人いた兵士のうち、無事に帰還できた将兵は5千人程度でした。
インフォグラフィックスには様々なバリエーションがありますが、文字で説明するよりも、やはり実際のグラフィックを見た方が分かりやすいかと思います。以下の論文にアクセスすると、インフォグラフィックスの具体的な例を見ることができます。
■McCrorie AD, et al : Infographics: Healthcare Communication for the Digital Age. Ulster Med J. 2016 May;85(2):71-5. PMID: 27601757
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27601757
■Balkac M & Ergun E. Role of Infographics in Healthcare. Chin Med J (Engl). 2018 Oct 20;131(20):2514-2517. PMID: 30334544
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30334544
■郷津 竜帆. インフォグラフィックスを活用する為の研究.送り手に向けたインフォグラフィックス「ぺんしる」の制作日本デザイン学会研究発表大会概要集. 日本デザイン学会 第65回春季研究発表大会
【インフォグラフィックスを医療現場で活用する】
インフォグラフィックスで視覚化された情報は、医療の現場においても、患者さんに対する服薬説明や病状説明等に有用だと考えられます。難解な専門用語で説明されるよりも、視覚化された情報とともに説明を受ける方が、病状や薬の服用方法に関する理解度も高まることでしょう。
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