はじめに
今月号は「はじめまして」な読者もいらっしゃるでしょうか。というのも、私が執筆した10月7日発売の「ビジアブで読み解く! 薬剤師の仕事に役立つ臨床論文50」1)に、「ねこでも読める医学論文」を紹介するコラムを書いたのです!論文を取り扱ったもののなかで、世界一ユルい内容を目指した「ねこ読め」は、ねこ薬剤師たちと一緒に論文を読み進めるというスタイルとなっていますので、論文を読んだことのない方でも楽しめると思います。
物語の設定をおさらいしておきます。ねこ薬局で働く、ねこ薬剤師2人(2匹?)が主人公です。薬局長の“はかせ”(ボスと呼ばれている)と、新人の“みに丸”の会話劇となっています。全文フリーで読める論文を1本とりあげて、読者も一緒に論文を読むことができるという構成です。
今回は初見の方もいらっしゃるかもしれないということで、ユニークな研究を取り上げました!なんと、論文のタイトルに顔文字が入っています。楽しそうな内容ですね。早速、ねこ薬局に舞台を移して論文を読んでみましょう!
1)菅原 鉄矢 「ビジアブで読み解く! 薬剤師の仕事に役立つ臨床論文50」日経メディカル開発
ねこでも読める医学論文 第14話「『今日はヒマだなぁ~』と言うと忙しくなる?」
はかせ「いやぁ~。今日は平和だねぇ。患者さんを待たせることなくテンポよく調剤をこなせているぞ」
みに丸「…ッッ!!?」
はかせ「おい、急にどうしたんだ?そんな睨まないでくれよ」
みに丸「あ…いえ別に…。なんでもないです」
~30分後~
はかせ「おい、そっちの一包化調剤の進捗はどうだ!?」
みに丸「まだ半分も終わってませんよ!90日分、朝・昼・夕の一包化ですよ!そんなすぐにつくれるわけ…。」
はかせ「あっ、次は3人兄弟、粉薬だ!分包機があいたら教えてくれ!」
みに丸「ひぇ~~、もう無理だぁ!」
はかせ「うわっ。待合室の患者さんがこっちを睨んでいるぞ!」
みに丸「あの人は1種類だけの処方ですよ!先に用意しましょうか!?」
はかせ「頼む!あっ、次の患者さんはぜんぶ30日分なのに、1日おきに服用する薬も30日分で記載されているッ!多分、15日分の間違いだ。病院に問い合わせだッ!」
みに丸「うわー、調剤待ちのカゴが溜まっていく~」
はかせ「ちょっと、どんな内容の処方かチェックしておこう!むむっ。なんだこの薬は!?聞いたことない薬だぞ。いつのまに新規採用になったんだ!?在庫を仕入れていないぞ!」
みに丸「その病院は新規採用のお知らせが来る前から処方が出ますからね。急配しましょう!どこの製薬会社の薬ですか?どこの卸で発注したら…」
はかせ「いや、一番、急いで持ってきてくれる卸に発注しよう!そもそもどこの製薬会社の薬か知らん!」
みに丸「患者さんに取り寄せになることをお伝えしておきます!ボスは発注を!」
はかせ「OKだ!」
一包化調剤:錠剤の薬を服用時点(朝食後、夕食後など)ごとに、分包(パック)すること。
新規採用:総合病院などにおいては、使用する薬剤(採用品)が定められており、採用外の薬は原則処方できない決まりになっている場合がある。
医薬品の発注と納入:薬局は数社の卸と取引をしているが、薬をつくっている製薬会社ごとに、発注する卸を固定している場合がある。
~4時間後~
はかせ・みに丸「ううぅ…、疲れたぁ」
2人(2匹?)のねこ薬剤師が机につっぷしている。
心身ともに疲れ果てた模様。
みに丸「ボスがあんなこと言うからですよ」
はかせ「あんなことってなんだい?」
みに丸「今日はヒマだとか、平和だとか言ったでしょう。あんなこと言うから…」
※薬局では、誰かが「ヒマだ」と言うと、そのあと猛烈に混むというジンクスがある。
はかせ「それについては異論があるぞ。そんなジンクスを否定するエビデンスがあるんだ」
みに丸「えっ?そんなエビデンスがあるんですか?」
はかせ「では、その論文を読んでみようか。」
文献2)を基に作成
みに丸「ちょっと、ボス!なんなんですか、この図解のタイトルの顔文字は!?ふざけないでくださいよ!」
はかせ「いや…、だって、論文のタイトルを見てみなよ。試験名のJAPANのAが顔文字になっている」
みに丸「ん…?ほんとだ!論文のタイトルに顔文字が入っているッ!」
はかせ「だから図解のタイトルにも顔文字を入れてみたんだよ。早速、読んでみようじゃないか」
はかせ「まずはこの研究の背景だ。イントロダクションに目を通しておこう。舞台は図解にも示したとおり、救急外来だね。Emergency departmentと書いてある。これはけして365日24時間営業の緊急時にも買い物ができるデパートという意味ではない」
みに丸「ボス…、ご丁寧に解説ありがとうございます、と言いたいところですが、それくらいぼくにもわかりますよ。さては、ボケたつもりなんですか?だとしたらぜんぜん面白くな…」
はかせ「あー、で、つづきなんだが、救急センターにはいろんなジンクスみたいなのがあるらしい。『満月の夜は混む』『13日の金曜日は混む』などと言われているようだ。」
みに丸「ひぃ~~~!!ホッケーマスクの怪物が襲ってくるぅぅぅ!!」
はかせ「ホラー映画を連想して騒ぐんじゃないよ。大丈夫だ。ジェイソンが襲うのはニンゲンだけだ。我々、ねこ族には手を出さないよ。で、もうひとつのジンクスなんだが、『今日は平穏な日だといいね!』みたいなことを言うと、救急外来が混むっていうジンクスもあると」
みに丸「そう!!それですよ!薬局だけじゃなくて病院も同じなんですね!医療界全体のジンクスだったんですねぇ」
はかせ「そこで、このジンクスについて科学的に検証してみようってことでランダム化比較試験が実施された」
みに丸「そんな試験が…。患者さんの治療とはまったく関係ないような…」
はかせ「遊び心があっていいじゃないか。ジンクスなど気にせずに純粋に会話を楽しめるようにしたいと論文の著者は述べている。会話を楽しむことは重要だぞ!では、研究の概要を見ていこう!」
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