地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2020年01月号 vol.6(1)

ライブラリアンによるないないづくしのEBM 第9回: GIVE & TAKE の順番

2019年12月18日 23:51 by chebsat33
2019年12月18日 23:51 by chebsat33

 

こんにちは。Independent Librarian(インディペンデント ライブラリアン) の chebsat33 です。

この連載では、主に “情報環境のあまり整っていない医療職がEBMを実践する際のヒントとなるようなリソースと活用のコツ” を紹介していく予定です。名付けて『ライブラリアンによるないないづくしのEBM』、略して『LiNE』としてみました。細く縒られた切れやすい糸のように拙い私の文章が、読んでくださる方たちのもとでそれぞれに綴られていき、いつか一枚の布のように何かの時にお役に立つものになったとしたらうれしいです。どうぞ、お付き合いくださいね。

さて。

2020年です。1月号です。新年ですね。
今年も、ゆるゆるでよたよたですが、歩み続けることを大切にしていきます。

前回から、『Resources for Evidence-Based Practice: The 6S Pyramid(根拠に基づく臨床のためのリソース:6Sピラミッド)』の各階層に該当するリソースの例を紹介しています。ピラミッドの日本語訳や各階層の関係性については、「第7回: まとまりはどこから」を参照してください。

第8回と第9回では、「Summaries (要点のまとめ)」をとりあげます。

と、その前に。

本題に入ってもいないのに、脇道です。

が、どうしても、伝えておきたく。

年が明けて最初の記事ですが、新年だからこそとも思いまして。

この連載ではおなじみ、MeSH(Medical Subject Headings、医学件名標目表)の2020年版についてです。MeSHについての詳しい説明は、当連載の「第5回: だけじゃないシソーラス [MeSH編] 」をご覧ください。

My Pickup MeSH2020

MEDLINE/PubMedでは、毎年12月のはじめから半ばまで、翌年版となる新しいMeSHへの対応作業が行われます(この作業が行われている時期は、MEDLINE/PubMedの検索に影響が出る場合があります)。2020年版MeSHの新設・削除・変更・統合などについては、2019年12月6日付の『NLM Technical Bulletin』中の「MEDLINE Data Changes—2020」で紹介されました。この記事を元に「ライブラリアンとしての私」、そして「ひとりの人間としての私」が着目した新設語をひとつずつご紹介します。

ライブラリアンとして

文献検索を担当するライブラリアンとして目を引いた新設語は、こちらです。

Entry Term(s) にもあるように、N-of-1試験に関するMeSH主標目「Single-Case Studies as Topic」が登場しました。N-of-1試験は、集団ではなく個人に対して行われるランダム化試験です。以下の文献やCONSORTのページなどに詳しい説明および実施に関するチェックリストがあります。

CONSORT extension for reporting N-of-1 trials (CENT) 2015 Statement.
Vohra S, Shamseer L, et al.
J Clin Epidemiol. 2016 Aug;76:9-17.
doi: 10.1016/j.jclinepi.2015.05.004. 
PMID:26272792 ※オープンアクセス

標目形に「as Topic」とあることから、この標目が付された文献はN-of-1試験を行ったものではなく、N-of-1試験の方法論などについて書かれたものが該当します。ただし、出版タイプを表す別のMeSH「Case Reports」と一緒に索引された場合は、N-of-1試験を行ったものが該当します。

ためしに、PubMedで ”N-of-1” という表現がタイトルに含まれる文献がどのくらいあるのかを調べてみたところ、2015年を境に増加傾向にありました。何年かすると、出版タイプとしての「Single-Case Study」というMeSHが登場するかもしれませんね。

ひとりの人間として

今回のMeSHの新設語には、ひとりの人間として、胸をぎゅっとしめつけられたことばがありました。こちらです。

Atomic Bomb Survivors」は、日本にとって、日本人にとって、特別なことばだと私は考えます。もちろん、日本だけが、日本人だけが、該当するわけではありません。けれど Entry Term(s) に「Hibakusha(被爆者)」が登録されていることから、新設にあたって関係者が日本のことを考えてくださったということがわかります。ちなみに、このことばは「MeSH Special Projects」という見出し語のもとに紹介されています。言うまでもなく、MeSHの管理をしているのは、NLM(米国国立医学図書館)というアメリカの政府組織のひとつです。

MeSHの新設語は、索引語という文献に付される役割上、比較的新しい概念が登録されます。
そして、このことばがMeSHとして登録されたずっとずっと昔から、関連文献は存在しています。

なぜ、このことばが2020年で登場したのだろうと、目にして以来、ずっと考えています。

厚生労働省による『原子爆弾被爆者実態調査』(最新版は2015年版、調査は10年に一度)によると、このことばに該当する日本の調査対象者の人数は53,049人。平均年齢は80.1 歳(男性79.0 歳、女性80.9 歳)。平均年齢は前回の調査(2005)より、6.6歳上昇しています。そして、次の調査は、2025年…。

この新設語、私にはとても大きな一歩のような気がするのです。

では、ようやく本題です。

〈今回紹介したリソースは2019年12月15日までにアクセス確認しています〉

Summaries:要点のまとめ

6Sピラミッドにおける「Summaries」とは、「特定の臨床課題についてのエビデンスを統合したリソース」のことです。教科書的なリソースが該当し、その中でも定期的に更新されるものを対象とします。前回の「第8回: 角度の異なるひとつの思い」では、診療ガイドラインをとりあげました。第9回はそれ以外の、臨床支援ツール等をご紹介します。

代表的な臨床支援ツールをライブラリアンなりに比較してみた

臨床支援ツールについて、継続的に視点を変えながら調査を行うライブラリアンがいます。奈良県立医科大学附属図書館の司書である、鈴木孝明さんと大瀬戸貴己さんです。

クリニカル・クエスチョンを用いた臨床支援ツールの比較
鈴木 孝明, 大瀬戸 貴己
医学図書館. 60(4) 2013. 459-67.

参考文献から見たUpToDateとDynaMed Plusの違い
大瀬戸 貴己, 鈴木 孝明
医学情報サービス研究大会抄録集. 34回 2017.

UpToDateとDynaMed Plusにおける参考文献取り下げ時の対応の比較
大瀬戸 貴己, 鈴木 孝明
医学情報サービス研究大会抄録集. 35回 2018.

クリニカル・クエスチョンを用いた臨床支援ツールの比較 6年前と現在
大瀬戸 貴己
医学情報サービス研究大会抄録集. 36回 2019.

 

私も、彼らほど細やかではありませんが、日本で導入の多い臨床支援ツールについて、ライブラリアンなりの視点で調査・比較し、表にまとめてみました。

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