地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2020年2月号 vol.6(2)

これってどうなの?〜感染管理の脇道〜 第4回「キーボード」

2020年01月22日 02:26 by kangosyoku_no_ebm
 11月号から新しく連載している「これってどうなの?〜感染管理の脇道〜」の第4回となります。
 
 これは感染管理における、「これってどうなの?」というもの、特に教科書などであまり解説されないような”脇道のエビデンス”についてまとめていこうという連載になっております。
 
 どうぞお付き合いください。
 
  
 近年、様々なものの電子化が進んでいます。
 
 例えば代表的なものとして電子書籍が挙げられます。
 
 2011年には651億円だった電子出版市場は2017年には2556億円になり、2022年度には3500億円の市場規模になると予測されているようです[1]。
 
 私自身、紙の書籍も買いますが電子書籍を買うことが年々増えてきました。
 
 この他の例としてはeラーニングなども挙げられるでしょう。
 
 医療の現場における大きな変化としては電子カルテシステムの導入があります。
 
 厚生労働省の電子カルテ導入率に関するデータでは2005年時点で7.4%だったのが、2014年には34.2%にまで上昇しています[2]。
 
 さらに400症以上の病院に限定すると77.5%の病院が電子カルテを導入していると報告されています。
 
 電子カルテシステムを導入することで、いつでもどこでも患者情報を参照・記録することができたり、紙カルテとは違い情報量が増えても少ないスペースで管理することができたりとメリットも大きいので多くの病院で導入されてきています。
 
 この他にもスマホやタブレットを業務中に使用しているスタッフも徐々に増えてきている印象です。
 
 pdfファイル等で持っておけば、重い教科書を何冊も持ち歩くことなくスマホやタブレット1台あれば参照できますし、検索できるように処理していればキーワードを入力するだけで欲しい情報にすぐたどり着けますよね。
 
 これらのように、どんどん医療現場でも電子端末が使われるようになってきたことに伴ってこんな指摘がされるようになってきました。
 
 「キーボードって不潔じゃない?」
 
 病院などで働くスタッフは様々な感染症に罹患している患者と接触しますし、電子カルテはほぼ一日中様々なスタッフが使用しているので沢山の人が触れています。
 
 きちんと手指衛生が遵守できていれば問題も大きくならないのかもしれませんが、日本の大学病院・市中病院における手指衛生の遵守率について3545人を対象に調査した調査[3]によると、適切な手指衛生が実践できていたのはわずか19%(医師:15%,看護師:23%)であったと報告されていることからも、「キーボードは汚染されてるんじゃないか?」という指摘は的を射た発想だと思います。
 
 では、キーボードは実際のところ病原微生物で汚染されているのでしょうか?
 
 そしてそれはどれくらい問題で、どのような対策が講じられるべきなのでしょうか?
 
 本稿ではキーボードと感染症に関するエビデンスについてまとめていきたいと思います。
 
 
 
【キーボード汚染の現状】
 
 イスファハン(イラン中央部)の病院におけるキーボードの細菌汚染を調査することを目的に行われた研究があります[4]
 
 この研究では65台のキーボードを無作為にサンプリングしました。
 
 その結果、98.5%のキーボードに病原微生物が定着していることが示されています。
 
内訳
・バシルス属(69%)
・コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(24%)
・黄色ブドウ球菌(23%)
・ミクロコッカス属(7%)
・肺炎桿菌(9%)
・大腸菌(1.5%)
・シトロバクター属(3%)
・アシネトバクターバウマニ(4%)
・エンテロバクター属(1.5%)
・アクチノマイセス(1.5%)
 
 非常に様々な病原微生物がキーボードに定着していることが分かります。
 
 この他にも、ロンドンの大学病院におけるキーボード・駆血帯のMRSA付着率を調査した研究[5]では、44台のキーボード(エンターキーとスペースキー)の内9台からメチシリン感受性黄色ブドウ球菌、4台からMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が検出されており、病院環境における環境表面の汚染と耐性菌の伝播に関する文献を調査した研究[6]では、ベッド・蛇口・キーボード等の病院環境表面はVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)、MRSA、P. aeruginosa(緑膿菌)、C.difficile、A.baumanniiなどで汚染されていることが報告されていました。
 
 やはり病院環境表面は様々な菌で汚染しているようです。
 
 また、MRSA患者の病室内のMRSA汚染を調査した研究[7]では、MRSA患者の病室でサンプリングされたもののうち27%(96/350)がMRSAで汚染されていたことが示され、更に、患者に直接触れてはいない(ベッド柵等の周囲環境には触れた)12人の看護師の手袋を培養すると、その内の42%がMRSA汚染で汚染されていました。
 
 患者に直接触れることで菌が付着することは自明ですが、病院環境表面が汚染していると患者に直接触れなくても医療従事者の手に菌が付着してしまうようです。
 
 そして、医療従事者の手についたその菌がまた別の患者に伝播する可能性があることは容易に想像できます。
 
 とはいうものの、これらの研究からはキーボード等の病院環境表面が汚染されていることは分かりましたが、「キーボードの病原微生物が本当に患者に伝播するのか」までは検証されていませんので分かりません。
 
 そこで、遺伝的な解析をすることで本当に患者に伝播するのかどうかに迫った研究があります。
 
 タイで最初に作られた病院であるヴァヒラ病院で、患者・環境のCRAB(カルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニ)がどこに拡散しているか、患者・環境のCRABが遺伝的に同質のものかどうかを調査しました[8]。
 
 この研究では患者(n=30)と病院環境表面(n=300)からCRABをサンプリングしました。
 
 その結果、以下の病院環境表面から検出されました。
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