地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2020年06月号 vol.6(6)

これってどうなの?〜感染管理の脇道〜 第6回「聴診器」

2020年05月22日 11:38 by kangosyoku_no_ebm
2020年05月22日 11:38 by kangosyoku_no_ebm
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を奮っています。
 
 どこの施設も強い緊張感の中で業務にあたっているのではないでしょうか。
 
 マスクやガウン等の個人防護具がここまで制限されるのも私としては初めての経験で非常にストレスフルで、「戦時中もこんな風に色々な資源が枯渇している中での医療実践だったのだろうか」と考えてしまいました(今回のCOVID-19の大流行を「第3次世界大戦」と表現している方も見かけました)。
 
 この記事を書いているのが4月中旬で、刊行されるのが5月末なので状況は変化していることと思いますが、状況の好転は難しくとも少しでも吉報が入っていることを祈ります。
 
 さて、これまでの記事で電子カルテのキーボードや指輪、駆血帯等に様々な病原微生物がいることを書いてきました。
 
 病院には様々な感染症をもつ患者がいますし、その患者に医療を提供するスタッフが使用する物品に様々な病原微生物が付着していても何ら不思議はないですよね。
 
 医療従事者が使用する代表的な医療器具として聴診器がありますが、聴診器にも同様の指摘がされています。
 
 体温計を個人専用にしている病院は少なからずありますが、一般病棟で聴診器を個人専用にしている病院は少ないのではないでしょうか(ICUや免疫不全状態の患者の多い血液内科病棟等では個人専用にしている施設が多いですよね)
 
 沢山の患者に使用する聴診器+適切な手指消毒すらなかなか行えていない医療従事者=汚染された聴診器の不適切使用
という計算式が導出されるのも容易に理解できることです。
 
 本稿では聴診器汚染の現状、医療従事者の消毒の認識と実践、消毒の効果等についてまとめていきたいと思います。
 
 
 
【聴診器汚染の現状】
 
 実際の論文を読んでいきましょう。
 
 聴診器の汚染の頻度及び清掃の実践について調査した研究があります[1]
 
 この研究は、サウジアラビアの東部州に位置する 440 床の三次医療機関であるキング・ファハド大学病院で行われました。
 
 さまざまな医療従事者が使用している100台の聴診器から綿棒でサンプルを採取しています(対象者が無作為に抽出されたのか否かについては特に記載がなかったため分かりません)
 
 また、聴診器は職種と聴診器の清掃頻度(一度も清掃したことがない、年に一度、週に一度、毎日、または患者ごとに清掃した後)を調べる簡単な質問票に記入してもらいながら収集しました。
 
 その結果、調査対象の聴診器100台中30台(30%)が微生物で汚染されていました。
 
・グラム陽性桿菌:12%
・表皮ブドウ球菌:9%
・大腸菌:7%
・クレブシエラ属:2%
 
 しかし、MRSAは検出されませんでした。
 
 聴診器の清掃について全体では、医療従事者の21%が毎日、47%が毎週、32%が毎年聴診器を清掃していましたが、医療従事者の中で、患者ごとに聴診器を清掃している人はいなかったことも示されました。
 
 また看護師は医師や医学生に比べて聴診器の清掃頻度が高い傾向にありました。
 
 大きな差はありませんが、「適切な手指消毒が実施できているのは医師で15%、看護師で23%」という報告[2]もありますし、
 
 看護師の方が清掃に関する意識が高い(というより多くの医師が感染制御に対する意識が高くないだけなのかもしれませんが…)というのは体感とも一致します。
 
 この他の職種別の聴診器汚染率を調査した研究[3]でも、以下の図のようになっており、同様の傾向が認められていました。
 
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