こんにちは。Independent Librarian(インディペンデント ライブラリアン) の chebsat33 です。
この連載では、主に “情報環境のあまり整っていない医療職がEBMを実践する際のヒントとなるようなリソースと活用のコツ” を紹介します。名付けて『ライブラリアンによるないないづくしのEBM』、略して『LiNE』としてみました。細く縒られた切れやすい糸のように拙い私の文章が、読んでくださる方たちのもとでそれぞれに綴られていき、いつか一枚の布のように何かの時にお役に立つものになったとしたらうれしいです。どうぞ、お付き合いくださいね。
さて。
今回と次回は、「撤回論文」を「日本」の「ライブラリアン」の視点で考えていきます。撤回論文とは、ざっくり言うと「出版した後に何らかの理由で取り下げた論文」のことです。
…我ながら、ざっくりしすぎですね。
特に、「何らかの理由」のところ。
記事の後半で、触れることにします。
〈今回紹介したリソースは2020年6月14日までにアクセス確認をしています〉
撤回論文を海外のデータベースから考える
今回は、海外のデータベースから撤回論文を俯瞰していきます。
PubMedの撤回関連データと付与される索引語
まずは、PubMedに登録された撤回に関係する文献の書誌データと、そのデータに付与される索引語を見ていきます。PubMedは、索引にMeSH (Medical Subject Headings, 医学件名標目表)を用いています(MeSHの仕組みや目的に合った索引語の探し方のコツについては、過去の記事『第5回: だけじゃないシソーラス [MeSH編]』でとりあげています)。
MeSHに登録された撤回論文に関係する索引語は、
- Retracted Publication
- Retraction of Publication
- Retraction of Publication as Topic
の、3語です。見た目は似ていますが、役割は全く異なります。
Retracted Publication: 撤回論文そのもの
論文が撤回されると、PubMedに登録された該当論文のデータにあるPublication Type(画面下方)の項目に「Retracted Publication」という索引語が付与されます。
PubMedでは索引語の付与と併せ、登録データの画面上部に、かなり目立つ形で撤回されたことがわかるような目印が付けられます。論文が撤回される理由は複数ありますが、倫理的に問題があったりデータの扱いが不適切だったりしたものも含まれていますから、このような論文を参照・引用することで、該当領域の研究に負の連鎖を生まないようにするための配慮ともいえます。
撤回論文をPubMedで探すための検索式は、「Retracted Publication[PT]」です。
Retraction of Publication: 撤回の告知記事
論文が撤回される際には、出版社や編集委員会、あるいは著者の名義で「撤回されたことを知らせるための記事」が公開されます。これが、撤回の告知記事です。PubMedには、撤回の告知記事も登録されています。この場合に付与される索引語は、「Retraction of Publication」です。
告知をレターの形式で行う場合は、Publication Typeの項目に「letter」と「Retraction of Publication」が併記されます。
それぞれの撤回論文に関する告知記事をPubMedで確認するには、先に挙げた撤回論文そのもののデータの目印にある「See the retraction notice」のリンクをたどると効率がよいです。撤回の告知記事をリストアップする場合の検索式は、「Retraction of Publication[PT]」となります。
Retraction of Publication as Topic: 撤回をテーマにした文献
PubMedには、撤回論文を研究や議論のトピックにした文献も登録されています。このような文献には、「Retraction of Publication as Topic」という索引語が付与されます。撤回論文が主題として扱われた文献を対象としていますので、Publication Typeではなく、他のトピカルな主標目と共にMeSH Termsの項目に記述されます。
併記される他の主標目は、その文献が対象とする他の主題や内容によって変化します。上の例だと、撤回と共に「出版」が中心的な主題となっています。撤回について書かれた文献をリストアップする時の検索式は、「Retraction of Publication as Topic[MH]」です。
撤回論文を対象にした論文データベース
次に、撤回論文を対象にしたデータベースの紹介です。
Retraction Watch Database. (http://retractiondatabase.org)
Retraction Watch作成。Retraction WatchはCenter for Scientific Integrityの下部組織で、データベースを含む事業は、助成金と寄付金のもとで運営されています。
このデータベースを使って、日本で発行されたヘルスサイエンス領域の撤回論文を2017年から2019年までの3年分、リストアップしてみました。検索設定と検証の結果は、次の通りです。
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