(入所者の)男性が目の前で苦しいと泣いていて、病院で治療してもらわないといけないと思うのですが、7回も112(救急車を要請する電話番号)にかけても対応してもらえませんでした。2時間も待った挙句に、救急車は送れませんと冷たい口調で言われました。
こう証言するのは、スペインの首都マドリッドの介護施設(市営介護施設の入所者は高齢者、障害者、精神障害者)で働く匿名職員です。3月20日にスペインの大手新聞、EL PAIS1)は、同紙にEメールや電話で届いた介護施設入所者の家族や職員からの訴えをもとに、介護施設の入所者が救急搬送を拒まれている疑惑を報じました。当時の介護施設では、感染を恐れて出勤しなくなる職員が続出し、実際に感染するスタッフが出る中、マスクや手袋などの防御手段もなく、ケアは困難を極めていました。そんな中、ある入所者の家族は施設の医師から「病院への搬送という選択肢はほとんどありません」と伝えられたと言います。
その3日後の3月24日、衝撃的な事態が多くのメディアによって報じられました。前日の23日、クラスターの発生で要請を受けた軍の兵士がマドリッドの介護施設の消毒に赴くと、そこで目にしたのは「完全に見捨てられた状態で」ベッドに放置されている感染した高齢者や、同じくベッドに置かれたままの感染者の遺体の数々――。防衛大臣がこの事実を明らかにするや、検察は捜査に着手すると明言しました。この段階では、検察は劣悪なケアをした一部の施設で発生した単発的な事態と捉えており、それに対して非難された施設側が、自分たちは資源も医療支援も防護服もない中で危険な環境で働くことを強いられた、と反発している状況でした。中央政府とマドリッド市政府の間でも非難合戦となりました。
ところが、後に判明したところによると、ちょうどこの頃、マドリッド市の衛生部局から病院や介護施設に対して、一定の基準によって患者を選別し、病院への搬送を拒むよう求めるトリアージ・プロトコルが出されていたのです。
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