地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2021年01月号 vol.7(1)

ねこでも読める医学論文 第28話「痛みが悪化するかもしれないと説明されると、痛みが悪化する?」

2020年12月27日 12:30 by ph_minimal
2020年12月27日 12:30 by ph_minimal

はじめに

みなさま、あけましておめでとうございます。大晦日は楽しめましたか?私は大晦日はたいていどこかで飲んでいたのですが、2020年は自宅に引きこもって、うつろな目で新年を迎えていることでしょう(頭の中では楽しいパーティを夢想しながら)。

楽しいイベントは根こそぎ中止になった1年でしたが、お仕事方面では大学の研究室でご講演させていただいたり、エムスリーで連載が始まったりと、ゆるりと前進しているように思います。今年も無理しない程度に前に進んでいこうと思います。

ではさっそく「ねこでも読める医学論文(通称:ねこ読め)2021年」の幕開けです。張り切らずに参りましょう!

 

ねこでも読める医学論文 第28話「痛みが悪化するかもしれないと説明されると、痛みが悪化する?」

 

 

みに丸「むすぅ……」

はかせ「新年早々なにをムスッとしているんだい?」

みに丸「このぼくを騙すなんてひどいねこだ」

はかせ「はぁ?」

みに丸「みんなで忘年会をやった店に一人で飲みにいったんですよ。そこでマスターにワインの件についてぜんぶ聞きました」

はかせ「ハッ!そ、それはジム美さんがやったんだぞ。ジム美さんが…、プッ、ククク」

みに丸「ちょっとぉ!思いだし笑いをしてるじゃないですかッ」

※ねこでも読める医学論文 第27話「2020年忘年会 ~味覚に対するプラセボ効果~」

https://cmj.publishers.fm/article/23099/ 参照

 

はかせ「でも、プラセボ効果も使いようだと思うんだ。ジム美さんが超高級ワインだとうそぶいてきみは騙したわけだが、安物のワインをとてもおいしく感じたんだろう?」

みに丸「ぐぬぬ。そうなんですけど…、ひどい仕打ちだッ」

はかせ「ポジティブなプラセボ効果はむしろありがたく頂戴したいけどなぁ。『信じるものは救われる』」

みに丸「信じるもなにも嘘じゃないですかッ。ぼくは騙されたくないッ」

はかせ「まあそうだね。嘘はよくない(笑)。根拠がいまいちな情報を信じ込んでしまったがゆえに、ノセボ効果が発揮されてしまうこともある」

みに丸「ノセボ効果ってなんでしたっけ?プラセボ効果の逆パターン?」

はかせ「それ」

みに丸「高級ワインを、安物のワインだって嘘をつかれたら、美味しさを感じないこともあると」

はかせ「味覚で例えたらそういうことになるかもね。たとえばジェネリック医薬品はぜったいにダメだと思い込んでいる患者さんは、原薬も添加物もぜんぶ同じはずのオーソライズドジェネリックでも具合が悪くなったとおっしゃったりする。これはノセボ効果だろうね。パッケージと名前以外は同じだから」

みに丸「あー、それは困る」

はかせ「たしか痛みについての研究で、おもしろいのがあるんだ[1]。ちょっと読んでみようか」 

 

[1]Pfingsten M, Leibing E, Harter W, Kröner-Herwig B, Hempel D, Kronshage U, Hildebrandt J. Fear-avoidance behavior and anticipation of pain in patients with chronic low back pain: a randomized controlled study. Pain Med. 2001 Dec;2(4):259-66.  PMID: 15102230.

 

対象論文はこちらからダウンロードできます。

https://academic.oup.com/painmedicine/article/2/4/259/1875632

(「PDF」をクリックすればPDFファイルをダウンロードできます)

ぜひとも論文と照らし合わせながら、ねこ薬剤師たちの論文抄読会にご参加ください。

 

~研究の背景~

はかせ「研究の背景について、論文のイントロダクションからピックアップしておこう。ちょっとこむずかしい話になるんだが…」

みに丸「こむずかしいのはイヤだな」

はかせ「いいから聞きたまえ。慢性腰痛では、8割程度が病理学的な原因がはっきりせず(←非特異的腰痛nonspecific back pain)、痛みや障害の程度には心理的な要因の影響も受けるそうだ。痛みに対する恐怖と回避行動(恐怖回避思考:Fear-Avoidance Beliefs)の関連についていろいろと研究されており、慢性腰痛の悪化に影響するかもしれないという懸念があるようだ」

みに丸「わけがわからん。もっと砕けた表現でおねがいします」

はかせ「たとえば急性の怪我だったら、痛い!痛いの怖い!てことで安静にすることで治癒の促進につながるかもしれないけど、慢性腰痛の場合は、こういった恐怖回避思考は腰痛の悪化につながるかもってことだね」

みに丸「なんで慢性腰痛が悪化するんですか?」

はかせ「痛みが悪化するかもしれない行動を避けるっていうのはあたりまえの行動って気がするけど、これが身体活動の低下につながり、結局のところ長期的には慢性腰痛に悪影響かもしれないってことだ。この恐怖回避思考は、腰痛による仕事の欠勤にもつながるという研究もあるらしい。痛みの予期によって脚の可動域とかにも影響するみたいだよ。結果的に筋力が低下したりする可能性はあるかもしれないね」

みに丸「なるほど」

はかせ「そこで、この研究の目的だ。患者に痛みを誘発することのない動作を行ってもらい、この際に、痛みが出るかもしれないよ!と痛みの予期を促すことで恐怖回避思考が実験的に誘発できるかどうかを調べている。痛みを誘発することのない動作だから痛みが悪化するはずはないんだけど、口頭で痛みが出るかもって伝えることで被験者にどんな影響がでるかを検証したんだ」

みに丸「そりゃすごい実験ですね。痛みが出るかもって言われたら怖いなぁ」

はかせ「そう。それがどんな影響を与えるかってこと。実態に痛みが悪化してしまうのかどうか…。本来は痛みを誘発しないはずの動作だから痛みは変化しないはずなんだけど、実際のところどうなるかってこと」

みに丸「さっそく研究の中身を見てみましょう!」

 

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