地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2021年02月号 vol.7(2)

ケアとしてのクーリング、「Why?」という問い

2021年01月21日 17:38 by kangosyoku_no_ebm
2021年01月21日 17:38 by kangosyoku_no_ebm
 最近、弊ウェブサイト「看護職のEBM」にこんなメッセージが届きました。
 
「ルーチンの頭部、腋窩、鼠径のクーリングって効果あるの?特に頭部クーリングは体温低下に効果があるのか非常に疑わしい。これがルーチンになっていることで、体温がなぜ上がっているのか、を考えることができない看護師が増えているような気がする」
 
 おそらく質問者様は看護職ではないようですが、これは発熱患者に対してクーリングを行う看護師が多いことについてのご指摘だと思います。
 
 確かに、体温低下をアウトカムとした場合のクーリングはそこまで有益ではありません。
 
 少しクーリングのエビデンスをおさらいしてみましょう。
 
 看護師を対象に氷枕を使用する目的について調査した研究[1]によると、クーリングは解熱目的で行われることが一番多かったことが報告されています。やはり多くの看護師はクーリングを解熱目的で行っているようです。
 
 そして、鎮静下ではシバリングが抑制されているため、解熱、エネルギー消費の減少に有効であるという報告[2][3]があります。
 
 ただ、体温をアウトカムにしたクーリングの研究で用いられるクーリングの方法は、氷枕などのような局所的に冷やすものだけでなく、全身を覆うようなブランケット(その中に空気や水を入れて全身を冷やす)を使用していることが多く、そのため、氷枕のように後頭部などの局所だけを冷やすことで体温低下作用を得られるかというとあまり期待できないでしょう。
 
 事実、氷枕等の頭部への貼用では深部体温は下降しないという報告もあります[4]。
 
  では、複数の部位を冷やせば効果があるのかというとそれも判然としておらず、看護師はしばしば後頭部・腋窩・鼠蹊部などの複数箇所冷やす3点クーリングや5点クーリングを行いますが、それらの効果は不明瞭だと報告されています[5]。
 
 そして有害性については、無鎮静の状態ではクーリングはシバリングを誘発させてエネルギー消費を増加させることが知られています[6]。
 
 また、感染症などでセットポイントが上昇している病態ではクーリングによりシバリングの惹起や死亡率・合併症リスクの増加の可能性があると考えられています[7][8]。
 
 これらのことから、一般病棟において発熱患者に対して行われるクーリングに関しては、エビデンス的には体温低下をアウトカムとした場合ほとんど意義はないと考えるのが妥当でしょう。
 
 有益性どころか、有害性が報告されている現状なので、冒頭のご指摘のようにその部分について看護師自身、もう少し深められると良いのかもしれません。
 
 ただ、頭部のみのクーリングに関して言えば、これらのエビデンスを踏まえると、「体温低下効果もシバリングを引き起こすリスクも低く、毒にも薬にもならない」ことがほとんどであるように思います。
 
 そして、私自身、以前の地域医療ジャーナルでのクーリング記事のタイトルを「『クーリングにはエビデンスがない』のか?」としているように、クーリングに確かなエビデンスがあると認識している看護職はそう多くないように思います。
 
 つまり、「クーリングには(有効だとする)エビデンスがない」とは認識されているものの、「それでも実践されているのではないか」と感じられるのです。
 
 何故でしょうか?
 
 これにはエビデンス以外の理由があるように思います。
 
 
【参考文献】
 
[1]田中久美子, 他. 看護婦の氷枕貼用に対する意識の実態調査. 熊本大学医短紀要, 11, 49-53, 2001.
 
[2]Axelrod P. External cooling in the management of fever. Clin Infect Dis. 2000 Oct;31 Suppl 5:S224-9. [PMID:11113027]
 
[3]Poblete B, et al. Metabolic effects of i.v. propacetamol, metamizol or external cooling in critically ill febrile sedated patients. Br J Anaesth. 1997;78(2):123–127. [PMID:9068325]
 
 [4]樋之津淳子, 淳子高島, 尚美香城, 他:冷罨法による皮膚温・深部温への影響. 筑波大学医短研究報告22, 27-32, 2001.
 
 [5]工藤由紀子. 看護における複数クーリングの現状と課題.日看研会誌 2011;34:143-149.
 
[6]Intensive Care Med. 2004 Mar;30(3):401-7.[PMID:14722642]
 
[7]Kluger MJ, et al. The adaptive value of fever. Infect Dis Clin North Am. 1996 Mar;10(1):1-20.[PMID:8698984]
 
[8]Villar J, et al. Induction of the heat shock response reduces mortality rate and organ damage in a sepsis-induced acute lung injury model. Crit Care Med. 1994 Jun;22(6):914-21. [PMID:8205824]
 
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