地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2021年01月号 vol.7(1)

食品成分表2020公表!知っておきたいエネルギー算出方法の変更について

2020年12月26日 11:52 by shinnoyuki
2020年12月26日 11:52 by shinnoyuki

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(@shinno1993)です。

『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』が公表されました【1】。

食品標準成分表は,食品成分に関する基礎データを提供する役割を担う重要な資料です。病院等での献立作成や,国民健康・栄養調査,食料需給表の作成でも活用されています。初版の公表は1950年。食品数や成分項目数を増やしながら改訂を重ね,今回で八訂となりました。

今回の改訂での注目点は,エネルギー算出方法の変更です。エネルギーは,献立作成や食事調査等において必ずと言ってもいいほど利用されます。影響の範囲は比較的広いと推測されます。

本記事では,変更されたエネルギー算出方法について解説するとともに,それを受けて食品のエネルギーがどのように変化したかについて紹介していきます。

主に下記について書いていきます:

  • 従来のエネルギー算出方法と問題点
  • 2020年版のエネルギー算出方法の概要
  • 食品のエネルギーはどのように変化したか

【はじめに】どのように食品のエネルギーを算出するか?

私たちが生きていくためには「エネルギー」が必要です。体温維持のための熱エネルギー,筋肉を動かすための運動エネルギーなどです。ヒトはこれらのエネルギーを食べ物から得ています。たんぱく質・脂質・炭水化物といった栄養素を特に「エネルギー産生栄養素」とよびます。これらを摂取し,消化・吸収・代謝(燃焼)することで私たちはエネルギーを得ています。

食品にどの程度のエネルギーが含まれるかは,その食品を燃焼させれば測定できます。しかし,食品を食べて得られるエネルギーは,それで測定できるほど単純でもありません。ヒトがそれらの栄養素を摂取した場合には,消化・吸収の過程で失われてしまう部分があります。そのため,物理的に燃焼させた際に得られるエネルギーと,実際に生体内で確保できるエネルギーとでは差が生じます。そこで,エネルギーを産生する栄養素に,消化吸収率等を考慮した換算係数を乗じ,足し合わせることで,その食品を食べて得られるエネルギーを算出します。この換算係数をエネルギー換算係数といいます。

エネルギー換算係数として,一般にはAtwaterのエネルギー換算係数Atwater係数)が広く知られています。たんぱく質・脂質・炭水化物について定められており,それぞれ4kcal/g・9kcal/g・4kcal/g となっています。すなわち,たんぱく質を10g摂取した場合には40kcalが得られ,脂質を20g摂取した場合には180kcalが得られるという計算になります。

従来のエネルギー算出方法とその問題点

これまでのエネルギー算出方法

『食品標準成分表2015年版(七訂)』【2】では,上記のAtwater係数を,食品によってはヒト消化性試験の結果を評価し修正した上で使用してきました(修正Atwater法)。すなわち,下記のような計算式でエネルギーを算出してきました:

エネルギー(kcal) = たんぱく質(g) × 4 + 脂質(g) × 9 + 炭水化物(g) × 4 + (アルコール(g) x 7.1等)

ヒト消化性試験で評価された食品では,換算係数が異なります。たとえば精白米は,たんぱく質3.96,脂質8.37,炭水化物4.20の換算係数が使用されています。またFAO/WHO合同特別専門委員会の報告によって換算係数が決定された食品もあります。

なお,きのこ類や藻類等も通常とは異なる算出方法が用いられます。これらの食品には,食物繊維が多く含まれます。そのためか,ヒト消化性試験で個人差が大きく,有意な結果が得られなかったことから,一時はエネルギーが掲載されていなかったこともありました。2015年版では暫定的な処置として,Atwater係数から算出されたエネルギー値に0.5を乗じた値が採用されています。

修正Atwater法の問題点

さて,修正Atwater法については,いくつかの問題点が指摘されています。

たとえば,消化性試験の実施の困難さです。修正Atwater法では,一部の食品で消化性試験の評価をもとに個別のエネルギー換算係数を設定しています。精白米がその代表ですね。しかし,この消化性試験はとても大変なので,多くの食品での実施は困難です。そのため,消化性試験を行えない食品では,Atwater係数を使用するしかありませんでした。

これによって,たとえば食物繊維の多い食品で誤差が大きいことが指摘されてきました。

というのも,消化性試験等によって個別のエネルギー換算係数が設定できない食品では,炭水化物から得られるエネルギーとして,炭水化物の重量にAtwater係数である4を乗じて算出してきました。しかし,この「炭水化物」がやっかい。成分表での炭水化物は,一部の食品を除いて「差引き法」によって算出されます。食品の重量から水分・たんぱく質・脂質・灰分を差し引いた重量を炭水化物とする方法です。この方法によって算出された炭水化物は,その他の成分の分析で生じた誤差を一手に引き受けます。そのため,本来は炭水化物でない成分も炭水化物に含められる可能性が生じてしまうのです。

加えて,炭水化物には大きく分けて糖質と食物繊維があります。糖質と食物繊維とでは,重量あたりで生成するエネルギーが異なることが知られています。しかし従来の算出方法では,糖質と食物繊維を区別せず全体の炭水化物量に4を乗じた値をエネルギーとして計上していました。そのため,食物繊維が多い食品では,やや高めのエネルギーとして計算されてしまっていました。

さらにさらに,炭水化物の他にたんぱく質でも問題はありました。従来のたんぱく質は,食品に含まれる全ての窒素量に特定の換算係数を乗じることで算出していました。しかしこの方法では,本来はたんぱく質として分類されない窒素化合物(非タンパク態窒素化合物)までたんぱく質に含まれてしまうことになります。そのため,非タンパク態窒素化合物が多く含まれる食品では,やや多めに見積もられてしまうという問題もありました。

参考文献

【1】文部科学省. 日本食品標準成分表2020年版(八訂), (2020)

【2】文部科学省. 日本食品標準成分表2015年版(七訂), (2015)

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