地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2021年01月号 vol.7(1)

コロナ禍の生命倫理に関するニュース拾い読み

2020年12月31日 02:22 by spitzibara

① コロナ禍の長期化で安楽死考える高齢者が増加。高齢者施設の過度な面会や活動の制約に人権侵害との声も。

 コロナ禍により、高齢者福祉施設での面会禁止措置が入所者のQOLひいてはメンタルヘルスに及ぼす影響、認知症の人の場合には症状の悪化が懸念されています。

 カナダの退職者ホームで暮らす90歳のナンシー・ラッセルさんは、今なお頭脳シャープな活動的な人でしたが、第1波に見舞われた3月、面会禁止で家族や友人に会えなくなったばかりか、それまで日々の楽しみとしていた日々の活動も制限され、ついには2週間の間全く自室から出ることを禁じられてしまうと、心身ともすっかり参ってしまいました。常に疲労を感じるようになり、次にホームが閉鎖されたらは耐えられないと考えるようになったそうです。

 コロナ禍以前からMAID(積極的安楽死と医師幇助自殺を指すカナダの法的呼称)を支持し、いずれはと考えていたラッセルさんは、まだ自己決定ができるうちにと申請を予定よりも早めることにしました。この時は、申請を受けた医師は「あなたはまだ死ぬには早い」と却下。それでラッセルさんも冬に向けて準備を試みたものの、娘さんによればその間に健康状態は悪化したといいます。そのため二度目の申請が認められて、ラッセルさんは子どもの自宅に移り、10月20日に家族に囲まれて安楽死されました。

 この出来事を家族に公表するよう勧めたマウントサイナイ病院の老年科医サミール・シンハ医師は、その意図を「エビデンスを整理してみれば、(感染予防として取られる)こうした制限は多くの状況化で過度に制約的で不要な危害を引き起こしている」と説明します。施設の閉鎖により、孤独や無気力などの拘禁症状を呈する高齢者が増えていると懸念する研究者も。

 カナダで新型コロナ感染により亡くなる人の7割は80歳以上とのこと。MAIDについて高齢者からの問い合わせも増えているそうです。もともとMAIDを選択肢と考えていた高齢者が、コロナ禍での閉鎖状態を恐れて、その時期を繰り上げているのだろうと関係者は推測しています。

 加えて、多くの高齢者施設では職員不足により入所者のニーズに十分に応えられないところを家族が補ってきた面があり、その家族がコロナ禍により入れなくなったために、QOLが下がっていることもストレス要因です。

「正直いって、今やられている制限の多くは入所者本人ばかりか、家族と代理意思決定権者の権利を侵害していますし、あちこちで『こんなんだったら死んだほうがまし』と言っている人がいるという話を聞くと本当につらいです」とシンハ医師。

 オランダでは、施設入所の高齢者の健康悪化の問題にいち早く気づき、パイロットスタディとして26の介護施設で一人の入所者につき一人の訪問を認めてみたところ、感染事例が出なかったため、国内すべての介護施設に対してこのガイドラインの適用を公式に認めた、とのこと。  

 これまで家族介護者を介して介護施設で新型コロナウイルス感染が起こったエビデンスは少なく、この先施設閉鎖が起こるとしても、家族が愛する人に面会できる権利は残されるべきだと考えるのも無理はない、という一文が印象に残る記事でした。1)

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