地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2021年02月号 vol.7(2)

[告知] 音楽で思い出を再生する ~音楽の持つ可能性~

2021年01月24日 10:49 by bycomet

株式会社フェイス
音楽医療事業 リーダー
中務 佐知子

 厚生労働省の発表によると、2025年には国内認知症罹患者数は700万人を超えると推測されています。また軽度認知症者や65歳未満の若年性認知症者を合わせると、より大きな数値になることは言うまでもありません。超高齢化社会といわれる今日において、認知症に関する取り組みが課題となっています。

 当社では、かねてより音楽をエンターテインメントだけでなく、医療・ヘルスケア分野にも活用できないか模索してまいりました。認知症の予防方法は、まだ十分に確立されていませんが、薬物療法だけでなく、多くの非薬物療法も研究されています。そのような中で音楽療法がBPSD(認知症の行動・心理症状)やQOL(生活の質)に対して効果があることが、近年、海外の文献で報告されています。

 そこで国内の医療機関において音楽療法を実際に行っているところを調べましたところ、独立行政法人国立病院機構京都医療センター(以下、京都医療センター)で、認知症に対する脳神経内科外来音楽療法を行っていることがわかりました。音楽療法は、飯塚三枝子音楽療法士(以下、飯塚氏)がマンツーマンでの40分のセッションを医師の指導のもと診療として行っています。そこで何かお手伝いできることはないか、お伺いしたことがきっかけとなり、この度ご紹介するアプリケーションの開発につながっています。

 京都医療センターの音楽療法は、飯塚氏のピアノの伴奏に合わせて患者さんが歌ったり、リズムを取って体を動かしたり、音楽療法室にある楽器を演奏してもらったりします。病院に許可をいただき同席させていただいたときのことを今でも鮮明に覚えています。それは、待合室でご家族からの問いかけに反応が無く、発語も見られない患者さんが、ピアノの伴奏がはじまると、体を少し揺らしながら目の表情がやわらかくなってきたのです。そして簡単な発語も見受けられました。また、別の患者さんは伴奏で何の曲であるかを認識したのか、そらで歌いはじめました。このことは私の「音楽療法」に対する認識を大きく変えました。そして認知症を正しく理解することが大切であることを同時に感じました。認知症になると歌うことすらできないのではないかと思っていたからです。音楽療法は、対象者への反応効果のみならず、患者さんの表情が和らぎ、発語などがあるとセッションに同席されたご家族の喜びになり、そしてご家族の笑顔につながることを実感いたしました。

 このように音楽療法を受ける前と受けた後の変化を体験されたご家族より、「自宅に戻ったあとでも音楽療法ができないか」という要望があり、飯塚氏はその日に実施した音楽療法を録音したものを渡していることを伺いました。

 こうした状況を鑑み、このような効果が見られるノウハウがあるのであれば、医療機関の垣根を越えて多くの方々に利用していただける方法はないであろうかと考えました。そして、認知症に対する音楽療法を実施している医療機関はまだ多くないため、遠方からの通院が困難な方や、通院後に自宅でも継続して音楽療法が実施できる有効なサポートツールを提供したいという想いから、京都医療センターと共同でiOSアプリ「認知症外来の音楽療法™」を開発し、2018年9月27日よりサービスを開始しました。
※サービス名称は、2019年5月8日より「音楽回想法©」に変更になりました。

 医師の見解によると、音楽は脳の情動系に直接働きかけ喜怒哀楽といった感情に訴えかけるのだそうです。そのため、かつて聴いたり歌ったりした音楽は、その頃その音楽に接していた時に抱いた感情をそのまま再現してくれます。そしてその音楽に慣れ親しんでいた頃の思い出を呼び覚まします。「音楽回想法」アプリは、この音楽と脳のメカニズムを利用して作られています。

 例えば、実践されている音楽療法では、ご本人やご家族に好きな曲や歌手などをヒアリングし、歌唱の様子や会話を通して好きな花や色などから連想される曲などを探りながら選曲していきます。アプリでは最初に年齢、好きなジャンル、もの忘れ度合いなどを登録していただき、登録情報に応じて臨床データに基づき、その方の青春時代を想起させるような曲のプログラムを自動で作成していきます。患者さんの反応や表情などを伺いながら選曲を行っていく点については、初回に設定したプログラムの楽曲の評価をもとに次回以降の音楽プログラムを更新していく仕様になっています。

【図表1】音楽プログラムの設定
プロフィール登録後に、「セラピーを開始する」ボタンを押すと、利用者の好みにあった昔懐かしい曲がランダムに再生されます。
1曲を最後まで歌い上げることを目的とはしませんので、曲の途中、短いサイクルで次の曲に切り替わっていきます。次々にたくさんの曲を歌うことができるのが特徴です。
次の曲の伴奏がはじまって、テンポやリズム、音程といった複数の情報から、何の曲であるかを思い出すことは脳の多くの機能を同時に使います。

 

 この音楽療法では歌詞の正確さは求めませんので、通常歌詞カードは用いず、患者さんが歌詞につまって歌えない場合は、飯塚氏が歌詞の先読みを行ったり、楽譜に記載されている歌詞を見て歌ってもらうことがあるとのことでしたので、アプリでは選曲された曲の再生と同時に歌詞が表示される機能と歌詞の先読み機能を設けました。

【図表2】歌詞表示機能
歌うタイミングが取りやすいように曲の進行に合わせて歌詞が赤く表示されます。また利用者が高齢者である場合、眼瞼下垂により上方向が見えにくいことがあることを考慮し、画面での歌詞の表示位置を調整しています。また、画面最上部から歌詞表示をすると、認知症の方ですと真ん中に表示されている歌詞の途中から歌い始めてしまう方もいらっしゃることを聞き、表示位置を工夫いたしました。

【図表3】歌詞の先読み機能
画面での歌詞が見づらい場合は、歌詞を読み上げる「先読み機能」がありますので大変便利です。
これから歌う歌詞を先に読み上げてくれますので、歌い出しのタイミングも取りやすくなります。

 

 音楽療法における歌唱は、上手く歌えることは重要ではなく、ご本人が歌ったあとに満足感が得られることが重視されています。

【図表4】ガイドボーカル機能、各種プレーヤー
歌唱補助の「ガイドボーカル機能」は、お手本の歌が流れ歌唱を誘導してくれます。知らない曲を歌うときやどのような歌であったかを思い出すのをサポートします。
そして、主旋律は高齢者の方が聴き慣れた音色で統一しており、背景音が歌唱の妨げにならないよう配慮されています。
また、自分流に音程、テンポを設定できるプレーヤー機能が搭載されていますので、ご家族が歌っている速度や音程にあわせて調節が可能です。
これらの機能は、ON/OFFで設定を切り替えることができ、ストレスなく歌唱をお楽しみいただけます。
その他には、連続再生の設定を行ってから再生しますと、指定した時間中、音楽が自動で再生し続ける機能があります。ずっと付き添いが難しいときなどにご利用いただけます。

 

 音楽療法をはじめる前に、患者さんの好きな曲や歌手についてご家族に尋ねると、好きなジャンルや曲が分からないので、どのような音楽を選曲すれば良いですかとよく質問されるようです。実際の音楽療法での主な選曲方法について前述しましたが、好みの曲だけを採用するわけではないようです。歌唱中や音楽聴取中に少し否定的な反応があった場合であっても、認知症など対象者の疾病の種類によっては、何らかの反応があること自体が治療につながることもあるため、様子を伺いながら、知らない曲もあわせて取り入れていくこともあるようです。

 その点を踏まえて本アプリにおいても、好みの曲のみで楽曲リストを固定化せず、知らない曲、反応が良かった曲と似たような曲調の新しい曲もランダムに盛り込み、脳の活性化につながるようプログラム化しました。そして、楽曲再生後に表示される手動による評価機能以外に、音楽の選曲、レコメンドプログラムに表情認識技術による評価機能も備えています。

【図表5】音楽の選曲、レコメンドプログラム
カメラ機能を設定いただくと、音楽聴取中・歌唱前後の表情がカメラで自動撮影され、その表情の反応結果が次回以降の選曲プログラムに反映されます。※特許出願中
表情認識は、8つの感情「喜び、悲しみ、怒り、中立、驚き、恐怖、軽蔑、嫌悪感」を検出します。
ご本人やご家族が評価機能の操作をしなくても自動で楽曲の評価が行え、バランス良く選曲することを可能にします。
※本機能は、本アプリの利用規約及びプライバシーポリシーに同意いただいた方のみご利用いただけます。
※マイクロソフトのMicrosoft Azure「Face API」を利用しています。

 

 選曲されたプログラムの中で、ご家族のお好きな曲を記録し、オリジナルプレイリストを作成できる機能が「カルテ」です。

【図表6】カルテ機能
カルテでは、その日に歌った曲数を記録し利用者の好きな曲のランキングが表示されます。
また、お好きな曲のリストを作成することができますので、次に利用するときに歌いたい曲をすぐに見つけることができます。アプリ内の楽曲は毎月更新されますので飽きることなく継続できます。
そして利用状況に応じて「先生からのひとこと」が表示されますので、楽しみながら利用できることも特徴の一つです。

 

 このように「音楽回想法」アプリは、実際の音楽療法のノウハウを取り入れ、自宅でも簡単に利用できるように作られています。QOLの向上に役立つだけでなく、懐かしい曲を聴いたり歌ったりしながら、その曲にまつわる思い出話に花を咲かせるなどコミュニケーションツールとしても有用であると考えています。

 この「音楽回想法」アプリで、音楽療法全般が行えるとは思ってはおりませんし、個別性の高い音楽を網羅できているわけでもありませんが、心のよりどころとなる音楽で思い出を再生し、さまざまな感情の変化、生きている充実感などを少しでも感じ取っていただけたらと思います。そしてそれが生きがいとなり、ご家族の笑顔につながりますように願っています。

 これからも、音楽の持つ可能性を信じて、音楽を通して医療・ヘルスケア分野における新たな情緒的・経験価値の提供を目指してまいります。

 以下YouTubeより、音楽療法の様子をご覧いただけます。



■「音楽回想法©」アプリについて
・アプリ名: 音楽回想法 
※「認知症外来の音楽療法」から名称を変更いたしました。
・下記QRコード、URLよりダウンロード頂けます。
          
・配信形式: iPhone、iPad向けアプリ             
・対応端末: iPhone、iPad (iOS 10.0以降)          
・カテゴリ: メディカル                       
・利用料: アプリダウンロード無料
無料でご利用いただけます。
カルテ機能や全ての楽曲をお楽しみいただくには有料登録が必要です。(月額980円)
・配信地域: 日本
・対応言語: 日本語
・URL: 【iOS】 https://itunes.apple.com/jp/app/id1365270094
・公式サイト: https://www.smileplaylist.com

※本文に記載している会社名、製品名は、各社および各団体の商標または登録商標です。

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