地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2021年03月号 vol.7(3)

非‌セ‌リ‌アッ‌ク・‌グ‌ル‌テ‌ン‌過‌敏‌症‌(‌NCGS‌)‌の‌犯‌人‌ ‌

2021年02月26日 00:59 by shinnoyuki
2021年02月26日 00:59 by shinnoyuki

米を主食とする人が欧米と比べて多いであろう日本においても,グルテンフリーダイエットは人気を集めているようです。海外セレブやアスリートが実践し,話題になったことが要因にあるでしょうか。

実際,グルテンフリーダイエットを実践することで,自覚できる体調が良くなる人がいます。これには,以下にあげるようなさまざまな要因が考えられます。

たとえば,グルテンフリーダイエットの実践によって,全体的な食生活の質が向上し,それが体調を改善させたという場合があるかもしれません。その場合,グルテンは体調悪化の直接的な犯人ではなく,あくまでも体よく悪役を押しつけられた形になります。

ただし実際に,グルテンが体調悪化の直接的な犯人である場合もあります。

具体的にはセリアック病。セリアック病では,グルテンの摂取によって体調が悪化します。そのため,グルテンフリーダイエットによって体調が改善した人の中には,実はセリアック病だったという人が含まれているかもしれません(それほど多くないと思われますが)。

また,グルテンが直接の悪者でないにせよ,実はグルテンが含まれる小麦製品に対するアレルギーであったという場合もあるかもしれません。つまり,小麦に含まれるアレルゲン(グルテンを含む)に対して反応する小麦アレルギーです。小麦アレルギーでも,グルテンフリーダイエットによって,結果的に体調が改善する可能性があります。

しかし,セリアック病や小麦アレルギーでないにも関わらず,グルテンフリーダイエットの実践よって体調が改善する人がいます。しかも,先にあげたような「全体的な食生活が改善した結果」というだけでは説明がつかない事例もでてきています。どうやら,単なる「気のせい」で済ませられる話でもなさそうなのです。

そういった人は,非セリアック・グルテン過敏症NCGS:non-celiac gluten sensitivity)の可能性があるかもしれません。

NCGSは,まだ新しい概念で,原因もはっきりとしていません。そのため,NCGS自体に否定的な考え方をする人もいるようです。しかし,本記事ではNCGSについて,気のせいだとか,存在しない病気だとかいうつもりはありません。原因が確定的でないにせよ,最近の研究では原因であると示唆される成分なども明らかになりつつあります。また診断方法についても,単なる除外診断以外でも提示されるようになりました。

そこで今回は,NCGSについて,特に現段階で考えられている原因に焦点を当てて紹介していきたいと思います。

非セリアック・グルテン過敏症(NCGS)とは?

非セリアック・グルテン過敏症は,文字通りセリアック病でないにも関わらず,グルテンを摂取することで何らかの症状が現れる状態のことをさします【1】。

少しややこしいですが,NCGSには小麦アレルギーは含まれません。小麦アレルギーの原因はグルテンだけでなく,小麦に含まれる他のたんぱく質であることもあるからです。ですので,逆にいうと,小麦アレルギーの人はグルテンフリーだけでは不十分で,小麦そのものを避ける必要があるということもわかります。

NCGSの症状は,主に次の2つおよびそれらの組み合わせです【2】。すなわち,①腹痛や腹部膨満感などの胃腸症状,②倦怠感や頭痛などの全身症状です。これらの症状は,グルテンを含む食品を摂取した後に発生します。発生までの時間にはNCGS患者ごとに違いがありますが,半数以上が摂取後6時間以内に発生したことを報告しています。

NCGSの人が,日本でどの程度存在するかは明らかでありません。ただし,米国等における調査では,0.6~10.6%で存在することが報告されています【3】。

NCGSを引き起こす犯人

NCGSを引き起こす原因については,未だ確定的なものありません。とはいえ,いくつかの研究により,それと考えられる原因も明らかになりつつあります。

グルテン

まずグルテン。非セリアック・グルテン過敏症という名称の通りですね。後述しますが,最近ではグルテンがNCGSを引き起こす唯一の原因であるという考え方はあまりなされていません。しかし,それでも有力な候補として名前はあげられています。

2011年にAmerican Journal of Gastroenterologyに掲載された研究では,セリアック病や小麦アレルギーでないにも関わらず,グルテンの摂取によって何らかの症状を引き起こす人がいる可能性を報告しました【4】。

この研究では,セリアック病でないにも関わらずグルテンフリーで症状が改善した過敏性腸症候群の患者を対象に,ランダム化比較試験(RCT)を実施しました。グルテンを摂取するグループとプラセボを摂取するグループに分け,グループ間で症状の発生状況を比較しました。その結果,グルテンを摂取したグループの方で,プラセボを摂取したグループと比べて症状を適切にコントールできなかったと答えた人が多かったことを報告しました。

この研究結果が報告されるまでは,NCGSの存在はRCT等によって確認されたものではありませんでした。そのため,本研究により,NCGSが存在することを支持する初めての高品質な証拠が提出される形となりました。

参考文献

  1. Ludvigsson JF, Leffler DA, Bai JC, Biagi F, Fasano A, Green PH, Hadjivassiliou M, Kaukinen K, Kelly CP, Leonard JN, Lundin KE, Murray JA, Sanders DS, Walker MM, Zingone F, Ciacci C. The Oslo definitions for coeliac disease and related terms. Gut. 2013 Jan;62(1):43-52. doi: 10.1136/gutjnl-2011-301346. Epub 2012 Feb 16. PMID: 22345659; PMCID: PMC3440559.

  2. Volta U, Bardella MT, Calabrò A, Troncone R, Corazza GR; Study Group for Non-Celiac Gluten Sensitivity. An Italian prospective multicenter survey on patients suspected of having non-celiac gluten sensitivity. BMC Med. 2014 May 23;12:85. doi: 10.1186/1741-7015-12-85. PMID: 24885375; PMCID: PMC4053283.

  3. Shahbazkhani B, Fanaeian MM, Farahvash MJ, Aletaha N, Alborzi F, Elli L, Shahbazkhani A, Zebardast J, Rostami-Nejad M. Prevalence of Non-Celiac Gluten Sensitivity in Patients with Refractory Functional Dyspepsia: a Randomized Double-blind Placebo Controlled Trial. Sci Rep. 2020 Feb 12;10(1):2401. doi: 10.1038/s41598-020-59532-z. PMID: 32051513; PMCID: PMC7016109.

  4. Biesiekierski JR, Newnham ED, Irving PM, Barrett JS, Haines M, Doecke JD, Shepherd SJ, Muir JG, Gibson PR. Gluten causes gastrointestinal symptoms in subjects without celiac disease: a double-blind randomized placebo-controlled trial. Am J Gastroenterol. 2011 Mar;106(3):508-14; quiz 515. doi: 10.1038/ajg.2010.487. Epub 2011 Jan 11. PMID: 21224837.

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