地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2021年09月号 vol.7(9)

[新連載] 「死にたくなければ女医を選べ」は正しいか?(あさ読み抄読会 #1)

2021年08月29日 23:34 by kei_e-cats

 

はじめに自己紹介

はじめまして。私は市中病院勤務の内科医,kei と申します。
通勤時間などを割いて医療統計の勉強をしており,その勉強成果のアウトプットやその他の漫談を自身のブログ(evineko.com)に公開しています。

また現在,統計が好き過ぎる友人の変態医師と共同で,医療統計の基本をサラリと解説する youtubeチャンネル(スキマル)を運営しています。

自分の学習の output を公開していくことで,自分が成長するだけでなく,同じ学習者の皆さんに少しでも還元できればという気持ちでモチベーションを保っています。

ゆくゆくは全国民の統計リテラシーが高まり,

"日本人はエビデンスにうるさい"

と言われる様な社会になれば嬉しいなどと妄想しております。

今回,光栄なことに本誌の執筆者の一員としてお誘い頂きました。

すでに本誌では論文の批判的吟味について扱う素晴らしい連載がありますが,私も一介の臨床医としての視点を加えながらユル〜く論文を読むようなコンテンツを提供できればと考えています。

不定期ながら本誌の末席を汚させて頂きます。

何卒よろしくお願い申し上げます!


あさ読み抄読会

では早速,仮称「あさ読み抄読会(暫定)」を始めさせていただきます。

第一回のテーマは

「女性主治医の方が,患者死亡は少ないのか?」

です。

"Variations in Processes of Care and Outcomes for Hospitalized General Medicine Patients Treated by Female vs Male Physicians"

JAMA Health Forum. 2021;2(7):e211615. doi:10.1001/jamahealthforum.2021.1615

論文原著はフリーアクセスですので,是非論文を片手に一緒に読み進めていただければ嬉しいです。


主治医は女性がいいのか?問題

論文の概要

  • 2021.7月にウェブ上で公表(Epub)された新しい論文。
  • 仮説は「主治医のジェンダーは 一般内科(general internal medicine)の入院患者の死亡やその他のアウトカムに影響を与えるのか?」「それは診療プロセスの違いによるものか?」というもの。
  • カナダのトロントの7つの病院を対象とした後方視的な観察研究(retrospective cohort)

論文のPICO/PECO

  概要 
P 2010年4月〜2017年10月に,ER経由で一般内科病棟に入院し,入院期間が 30 日以内であった患者(カナダ)。(注1)
E 女性医師が主治医
C 男性医師が主治医
O 患者死亡,入院日数,ICU入室,30日以内の再入院,施行検査(血液検査,投薬,画像検査,内視鏡,アンギオなど)

(注1)
ただし試験期間中に100人未満しか一般内科病棟で診ていなかった医師や,入院期間が30日を超えた患者は除外。


P: 対象者patient(participant)
E: 要因暴露 exposure
C: 比較対照 control
O: 評価項目 outcome

結果

  • 合計 171625名の入院患者(男性49.1%,女性50.9%)が解析された。
  • 患者の年齢の中央値は 73歳(IQR 56-84歳)
  • 対象患者の診療にあたっていた主治医は 172 名(54名 31.4% 女性,118名 68.6 % 男性)
  • 全因子で補正したモデルにおいて,女性内科医は CT・MRI・超音波などの画像検査をより頻繁にオーダーする傾向にあった。
    • CT は 1.7% の差(95%CI, 2.78 - 0.61 %)の差,MRI は 0.88% の差(95%CI, 1.37% - 0.38),超音波は 1.9 % の差(95%CI 3.21-0.59%)
  • 女性医師の診療を受けた患者の方が低い院内死亡割合(4.8% vs 5.2%)であった。
  • この差は患者特性で補正を行っても持続したが,主治医の特性や診療プロセスの違いで補正を行うと,統計的に有意ではなくなった。

※ 95%CI:95%信頼区間
※ IQR:四分位範囲

結論

  • カナダの一般内科病棟に入院した患者において,主治医が女性医師であるほうが患者死亡率は低かった。
  • しかしこの知見は,医師の特性や診療プロセスの違いで補正すると,統計的に有意な差ではなくなった。


この論文から何が言えるのか?

以上は論文の要旨(abstract)に書いてある内容です。

問題は読者である私たちが,上記のデータをどう解釈すべきかです。
果たしてこれは,

ほ〜らやっぱり女性の方が診療が丁寧なんだ!

死にたくなければ女性医師を指名した方がいいんだ!

生データで死亡が 0.4% も違うのは臨床的に有意だ!


という話になるでしょうか。

この点についてフェアな視点で考えるためには,

  • 「生データ」と「補正データ」の違い
  • 「観察研究の限界」
  • 「観察研究の意義と立ち位置」

について知っておかなければなりません。

以下はあくまで私見であることをお断りした上で,観察研究と良い距離感で付き合うための「5つのポイント」を踏まえながら,この論文に向き合ってみたいと思います。


観察研究を読む時の5つのポイント

私が観察研究を読むとき,特に気にしているのは以下の5つのポイントです。

  1. 仮説検証ではなく仮説提唱である
  2. 背景因子が揃っていないため,データの補正が必要
  3. どのような因子でどう補正するかにより結果は変わりうる
  4. 提唱された仮説は RCT で検証可能か
  5. その仮説が真だとして,どの様な介入が可能か

今回の論文に関して,順に考えてみたいと思います。

 

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