地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2022年03月号 vol.8(3)

期待の新薬アデュカヌマブはどのくらい「効く」か? <3/終> risk/benefit バランスとコスト問題

2022年02月28日 12:08 by kei_e-cats

今回も前回の記事に引き続き,

認知症新薬のアデュカヌマブの効果は,どの程度期待できるのか?

について考えていきたいと思います。

*この記事の記載内容に関し,筆者が開示すべき COI はありません。


前回の復習

毎度のことながら,前回までに取り扱った内容を簡単に復習します。

  • アデュカヌマブの第 III 相試験は2本あり(EMERGE・ENGAGE)

  • いずれも早期アルツハイマー型認知症・MCI を対象とした国際共同試験

  • 中間解析で無益性の判定となり,両試験とも途中中断された(EMERGE 803例,ENGAGE 945 例が解析対象)

  • 中断後の後付け解析で,EMERGE では主要評価項目(認知機能スケール CDR-SB)の有意差を示したが,ENGAGE 試験ではプラセボよりも成績が悪かった(EMERGE 1638 例,ENGAGE 1647 例が解析対象)

  • アミロイドPETの画像所見は,いずれの試験でも有意に改善させていた

  • 「画像改善」という〈代用アウトカム〉をもとに〈迅速承認〉された

  • 今後 10 年以内の 市販後検証的試験(第 IV 相試験)で認知機能スケールでの有効性を示すことができなければ,承認取消となる

  • また,投与に伴う主なリスクとして,9人ごとに1人 脳内微小出血(NNH 9)を起こし,4人ごとに 1人 脳内浮腫を起こす(NNH 4)


─── データ出典 ───

● NCT: EMERGE試験 (NCT02484547)ENGAGE試験 (NCT02477800)
● FDA: 諮問委審議ページ提出されたプレゼンテーション
──────────────

治験データに関しては,連載第1回 の無料公開部分で非常に詳細に取り扱っていますので,そちらをご覧いただければ幸甚です。

とはいえもう一度,公開されている治験結果のデータの要点のみ復習しておきましょう。


PICO-T

  試験の概要
P アミロイド PET 画像所見のある MCI・軽度認知症
I Aducanumab(低用量レジメン or 高用量レジメン) / 4週ごと投与
C プラセボ / 4週ごと投与
O Primary: CDR-SB の baseline からの変化
Secondary: MMSE, ADAS-Cog13, etc の baseline からの変化
T 78 週経過時点(約1年半)

P:対象者(Patient/Population), I:介入(Intervention)
C:比較対照(Control), O:アウトカム(Outcome), T:期間(Timeframe)


試験結果(ITT)

EMERGE  プラセボ群 
(n=548)
高用量群 
(n=547)
§[95%CI] p値
CDR-SB† +1.74 +1.34 -0.40 [-0.71, -0.10] 0.010
MMSE† -3.3 -2.8 +0.50 0.062
78週完遂 52.6% 54.7%    
ENGAGE  プラセボ群
(n=545)
高用量群 
(n=555)
§[95%CI] p値
CDR-SB† +1.55 +1.58 +0.03 [−0.26, 0.33] 0.83
MMSE† -3.5 -3.6 -0.10 0.79
78週完遂 60.9% 52.9%    

†: ベースラインとの比較(経時的悪化の程度を評価)。
§:ここでの「差」は「プラセボ群のベースラインとの差」と「実薬群のベースラインとの差」の「差」。

▶︎ 総括)

  • ENGAGE はプラセボより実薬の方が成績が悪かった(有意差以前の問題)。
  • EMERGE のみ,主要評価項目(CDR-SB)で有意差あり。
    • ただし CDR-SB は 0.5 点刻み 18 点満点のスケール。プラセボとの 0.40 [0.71, 0.10] の差が臨床的に有意かは要検討。

有害事象

  • ARIA:アミロイド関連画像異常
    • ARIA-E(edema):脳内血管性浮腫;早期中断すれば多くは可逆性
    • ARIA-H (hemorrhages) :頭蓋内微小出血や脳表ヘモジデリン沈着
EMERGE プラセボ群
(n=547)
低用量群
(n=544)
高用量群
(n=547)
ARIA-E 12 (2.2%) 140 (25.7%) 186 (34.0%)
ARIA-H(微小出血) 38 (6.9%) 88 (16.2%) 102 (18.6%)
ARIA-H(脳表ヘモジデリン沈着) 14 (2.6%) 50 (9.2%) 73 (13.3%)
ENGAGE プラセボ群
(n=541)
低用量群
(n=548)
高用量群
(n=558)
ARIA-E 16 (3.0%) 139 (25.4%) 198 (35.5%)
ARIA-H(微小出血) 31 (5.7%) 85 (15.5%) 98 (17.6%)
ARIA-H(脳表ヘモジデリン沈着) 10 (1.8%) 48 (8.8%) 86 (15.4%)


▶︎ 総括)

  • 脳浮腫の NNH 4,脳内微小出血の NNH 9
  • 4人ごとに1人余分に脳浮腫を起こし,9人ごとに1人余分に脳内微小出血を起こす。


以上から考えたい数々の問題

上記のデータや迅速承認の経緯からは様々な問題点が見えてきますが,医療統計・医薬品リテラシーの教材として考えた場合,特にポイントとなるのは以下の5点だと思います。

  • そもそも本当に「有意」なのか?(多重検定の問題)

  • 「代用アウトカムで迅速承認」の問題

  • 外的妥当性(一般化可能性)の問題(日本でも使えるデータか?)

  • risk/benefit バランス(ARIAと認知機能)

  • cost/benefit バランス(値段が高い問題)

 

連載第1回の記事では〈多重検定の問題〉という観点から,後付けでひねり出された p=0.010 という数値の妥当性,「本当に有意と言えるのか」といった問題について考えました。

また連載第2回の記事では,「代用アウトカムで迅速承認(accelerated approval pathway)」というプロセスが抱える問題について取り扱いました。

最終回となる今回は,のこる以下の問題について取り扱いと思います(▼)。

外的妥当性(一般化可能性)の問題(日本でも使えるデータか?)

risk/benefit バランス(ARIAと認知機能)

cost/benefit バランス(値段が高い問題)

最初に結論を述べてしまうと,本稿の要旨は以下の3つです。

アデュカヌマブの治験データは,本邦では原理的に再現できない

効果の期待値が頭蓋内出血のリスクに釣り合うか要検討

コストの高さに見合うかは要検討

以下は購読者の方限定となりますが,お付き合いいただければ幸いです。

※この記事の記載内容に関し開示すべき COI は特にありません。

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