1990年代前半のEBM登場以降、論文結果を患者に役立てることは、最も心血注いで行ってきたことの一つだった。論文を読んでは患者に説明するといえば何でもなさそうだが、あっという間に30年が経過して、正直説明すればするほどうまくいかない現実があり、まともに説明してはいけないということははっきりした。詳しく説明するなんてもってのほかだ。時間もかかるし、説明する方も聞く方もどちらも大変だ。その大変さに見合うものがあったかというとはっきりしない。はっきりしないどころか、説明した方が、迷いが深まったり、混乱したりした。
混乱を招いた説明の一例を提示しよう。
「降圧薬を飲むことにより5年間で5%の脳卒中が3%にまで少なくなります。割り算で比をとると40%予防するということもできますし、引き算すれば2%予防するともいえます。2%を逆数にすれば50となり、これは5年間50人治療すると1人の脳卒中が予防できるという計算になります。さらに脳卒中を起こさない人で効果を考えれば、治療によって脳卒中にならない人が95%から97%にまで増加します。これを比でみれば、2%脳卒中にならない人が増加するということです。おわかりになりますか」
このように説明してもうまくいかない。それは当然と言えば当然のことなのだが、それではどんな説明をすればいいのかと言われると、30年を経てもよくわからない。説明しないのが一つの対応方法だということははっきりした。また権威主義に戻るのかと言われるかもしれないが、丁寧に説明して混乱するよりはましな気がする。エビデンスがあるが故に説明が困難になる、これが現実なのだ。
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