地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2022年12月号 vol.8(12)

患者と図書館-市民が医療・健康情報を得るために- 第3回 大学図書館

2022年11月26日 02:53 by naohikoyyamaguchi
2022年11月26日 02:53 by naohikoyyamaguchi

聖隷佐倉市民病院図書室 山口直比古

1 はじめに

 昨年(2021年)5月1日に、大阪府箕面市に大阪大学外国学図書館と箕面市立図書館が一つになった図書館が開館し大きな話題となりました。大阪大学という国立大学が、箕面市立図書館の運営を請け負い、附属図書館の一つである外国学図書館と一体として建築し運営するものです。

大阪大学附属図書館 外国学図書館
お知らせ
移転・リニューアルオープンについて
2021年5月1日、外国学図書館は箕面市船場地区に移転、箕面市立船場図書館と一体化した新しい図書館として再開館いたしました。
https://www.library.osaka-u.ac.jp/gaikoku/

新しい外国学図書館のご紹介
https://www.library.osaka-u.ac.jp/pr/publish/kanpou_198/article_01/

箕面市立船場図書館
https://www.library.osaka-u.ac.jp/minohsemba/

 多くの方たちは、ご自分が大学生であったころを除いては、あまり大学図書館という所とは縁が遠くなってしまったのではないでしょうか。ところが、大学図書館には多くの情報が蓄えられています。医療・健康情報についてもしかりです。第1回目でご紹介しましたとおり、お近くの公共図書館には医療・健康情報についての専門的で信頼のおける情報はあまり多くはありません。しかし、大学図書館には専門的な情報が数多く集められています。今回は、大学図書館を利用するためのいくつかの方法をご紹介したいと思います。

 

2 大学図書館って敷居が高いよね! いや、ちょっと待って!

 大学は「学問の府」であり「象牙の塔」であり、一般の市民にとってはちょっとどころか大変に敷居が高い場所と思われています。ましてや、広くて暗くてたくさんの本が並んでいる書庫などにはとても入る気にはならないかもしれません。

 1993年11月19日に朝日新聞の投書欄である「声」に、仙台の39歳高校教員の方が「大学図書館の一般公開を望む」と題して次のような投稿をしています。「私の住む県内には二つの国立大学があるが、一般利用者には開放されていない。また蔵書数の多い県立図書館が閉架式なので、目録カードで探すほかない不便さを強いられている。大学図書館や公立図書館の閉鎖性が日本には今もあり、結果的にそれが市民の文化活動意欲をそぐ一因となったり、生涯学習へのささやかな芽を摘むことになってはいないだろうか。保管に力点を置かざるを得ない実情はわかるが、そのために資料はどれほど活用されているのだろうか。大学図書館や公立図書館の、市民への一層の開放を望みたい。」確かに1992年の日本図書館協会の調査では、国立大学中央図書館では74%、私立大学では31%の公開率に止まり、都市部より図書館の少ない地方での公開率が高いという傾向が見られました。しかし、こうした状況は、現在では大きく改善されています。

 ところで、日本にどのくらいの数の大学図書館があるのかをご存じでしょうか。国立大学が86、県立などの公立大学が98、私立大学が625、併せて809の大学があります。これらの大学には、大学設置基準の第36条や第38条に基づいて図書館が設置されています。その蔵書数は全体で3億3600万冊、所蔵している雑誌は440万種に上ります1)。この中で医学部は全国に81大学(国立42、公立8、私立31、これに加えて防衛医科大学校があるので、実際には82大学)があり、それぞれに医学専門の図書館があります。医学部図書館や医学情報センターなどと名付けられています。

 こんなにたくさんある大学図書館の多くは、実は一般市民の方でも利用できるのです。「生涯学習」や「開かれた大学」が謳われてきた2000年前後から、大学の図書館は急速に市民への公開へと舵を切り始めました。中でも国立大学(現在は国立大学法人という独立した法人になっている)は、「国民の税金」で運営されているのだから国民へ公開するべきである、ということから誰でもが利用できる仕組みになっています。2004年の大学図書館実態調査では、国立大学では87大学の全ての図書館が何らかの形で市民へのサービスを行っています。公立大学では77大学中74大学(96%)、私立大学では544大学中491大学(90%)で市民が利用できることになっています2)。利用できるサービスの内容としては、館内閲覧(100%)、複写(96%)、情報検索(79%)、レファレンス(64%)、館外貸出(56%)となっています。図書館の中で本を探して、読んで、必要な部分をコピーして持ち帰る、という感じの利用でしょうか。

 ここでご紹介した大学の数が、先に紹介した大学の数と微妙に違っているのは、先に紹介した数字は2021年の統計で、この時の調査名称は文部科学省が毎年実施している「学術情報基盤実態調査」という、どちらかというと大学図書館における情報環境整備の状況などが調査項目の中心となっており、後で紹介した数字は学術情報基盤実態調査の前身である「大学図書館実態調査」の数字なのです。「学術情報基盤実態調査」では大学図書館の公開に関する調査項目が無くなりましたで、少し古いのですが2004年の数字でご紹介することしかできないので、現在の状況は少し変わってきているのかもしれません。そのあたりは、後半でご紹介します。

 こうした大学図書館の市民への公開のきっかけとなったのは、1986年に出された国立大学図書館協議会の「国立大学図書館における公開サービスに関する当面の方策について ―大学図書館の公開に関する調査研究班報告―」であったと言われています3)。この報告書では、「大学図書館の公開とは、一般市民及び民間機関等の研究者に対して、図書館資料の閲覧など一定の図書館サービスを提供することを意味している」としています。今から見ると、当たり前のことなのですが、当時の大学は「不可侵」の領域だったのです。しかも大学により多少の違いはあっても、公開にはいくつもの条件が付いていていました。施設が狭かったり図書館員数が少ないという制約もあり、やむを得ない面もあるのですが、「学内利用者が優先で、教員や学生の利用に支障が無い事、例えば学生の試験期間中は利用できません」、「公共図書館の代わりではないので、その図書館にしかないユニークな所蔵資料などの利用が中心で、小説本などは公共図書館で借りてね」、などの前提に加えて公共図書館からの紹介状とか、大学図書館長の許可とか、閲覧は許可するけど貸出しはしないよ、などの様々な条件がありました。さらに、土・日・祝日はおおむね閉館であったのも公共図書館とは大きく違う点でした。私立の早稲田大学図書館のホームページには、はっきりと次のように書かれています。「早稲田大学図書館は一般公開しておりません。調査研究のために早稲田大学図書館で所蔵する特定の資料、他の図書館にはない資料の利用等を希望される方に限り、ご利用をお認めしています。また、個人からの所蔵確認や利用についてのお問い合わせもお受けしておりません。ご所属の大学・機関の図書館、または公共図書館を通じてお問い合わせください。」(https://www.waseda.jp/library/user/visitors/)ここまではっきりと言われると、逆にすっきりした気持ちにもなります。

 こうした状況に変化をもたらしたものは「生涯学習社会」「地域情報化」「開かれた大学」というような「外圧」であったと大串氏は述べています4)。また、最近公表された内閣府の生涯学習に関する世論調査(令和4年7月調査)でも、「問6あなたは、これから学習するとした場合、どのような場所や形態で学習したいと思いますか」という質問に対して24.2%の方が「図書館、博物館、美術館」と回答していますし、また、「問13今後社会人として学校で学び直す場合どこでの講座が開講されると学習しやすいですか」では、図書館や公民館などの社会教育施設と回答した割合が、インターネット(58.5%)に次ぐ46.8%でした5)。

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