今回から、3回シリーズで「医学中央雑誌」を創刊した尼子四郎について書いてみたいと思います。
第1回 人と生涯
第2回 尼子四郎と「医学中央雑誌」
第3回 尼子四郎と夏目漱石
はじめに
言うまでもなく「医中誌Web」は、日本国内の医学関連分野の文献情報を収集した唯一無二のオンラインデータベースです。その歴史は、明治36(1903)年、市井の開業医であった尼子四郎によって創刊された「医学中央雑誌(後の医中誌Web)」に遡ります。現存するものでは、1879年刊行の「Index Medicus(後のPubMed)」に続き、世界で2番目に古い医学文献二次資料とされています。1997年6月、PubMedのインターネット無料公開が実現します。2000年4月には、「医中誌Web」及び「医中誌パーソナルWeb」の有料Webサービスが始まりました。
本題に入る前に、「医中誌Web」が、私にとって、いかに身近で頼もしい存在であったかをお伝えしたいと思います。
「医中誌Web」が、医学図書館員にとって、最強のツールの一つであることは言うまでもありませんが、私に限っていえば、仕事を離れて、個人的にも「医中誌Web」を利用した経験が少なからずあります。それは次のような局面においてでした。
●自分や家族や友人の病気について調べるために
・私の視点 医学文献の無料公開を
・急性肝炎になって
・文献検索と出会いの数々 国内医学文献情報データベースの無料公開を願って
●関心のある事件についてより詳しく知るために
・大学図書館の一般公開を望む 薬害エイズの教訓
・『安全という幻想 エイズ騒動から学ぶ』を読んで 医学図書館員が読む薬害エイズ
●新聞やメディアの報道に接し、エビデンスの観点から情報の典拠を確認するために
「iPS心筋移植の大誤報」の記憶が鮮明です。
2012年10月、山中信弥先生のノーベル医学・生理学賞受賞に日本中が喜びに沸いていた矢先、「一人の日本人が、アメリカでiPS細胞から作った心筋細胞を移植し心不全を治療した」という記事が大新聞の一面に踊りました。ところが、数日を待たずして誤報の「おわび」が掲載され、この事件はあっさりと幕引きになりました。
「iPS心筋移植」は捏造だったのか?なぜこんなに大きく報道されたのか?
さっそく、医中誌Webで「“該当人物名”AND“iPS細胞”」で検索してみました。ヒットした3件はいずれも解説記事で、ここからは、報道されたような快挙はとても想像できませんでした。「なぜこんなに大きく報道されたか」についての検証は、私の知る限り充分ではないと思われます。
それにつけても、新聞記事には情報の典拠または確認のための手がかりを明記して欲しいと望みます。
読者コメント