地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2015年06月号 vol.1(4)

対論:糖尿病検診の実効性、そして病名と時間

2015年05月23日 01:20 by syuichiao
 
 2014年4月より、臨床検査技師法の一部が改正され、保険薬局などで被験者の自己採血による血液検査が可能となりました。短時間で気軽に検査が受けられるという事をメリットとして打ち出し、健康診断から足が遠のいている人の生活習慣病の早期発見や予防意識を高める動機付への期待が注目されています。

 このような保険薬局店頭における簡易血液検査が注目される中で、東京都足立区は糖尿病対策の一環として、足立区薬剤師会と連携し、「足立区糖尿病予防フォロー事業」を実施しています。

 足立区ホームページ【薬局で糖尿病リスクを早期発見!】
 
 その事業の概要を上記ホームページより引用します。

「薬局でのHbA1c測定の結果、糖尿病が疑われる数値(HbA1c 6.5%以上)の方に対し、薬局において医療機関の受診勧奨を行うものです。さらに、実際に医療機関を受診したかどうか、後日薬局に連絡をしていただきます(薬局からご本人に確認することもあります)。いずれも本人の同意に基づいて実施します。このフォロー事業を通じて、糖尿病の早期発見・早期治療を行うことで、区民の健康寿命延伸を目指します。」
(引用終わり)

 足立区は「糖尿病に関わる医療費」が23区最多ということから、特に糖尿病に対する対策を推進していたという背景があったようです。今回の取り組みは、糖尿病が強く疑われる「HbA1c値6.5%以上」の結果が出た区民に対して薬局薬剤師による積極的な受診勧奨が行われ、実際に受診につながった場合、足立区より委託料として1件につき500円が薬剤師会を通じて薬局に支払われるというものです。またHbA1c値の測定は有料で500円を自己負担してもらうことになっているようです。

キャリアブレイン:医療介護ニュース

 このような取り組みは一見すると、糖尿病の早期発見につながり、健康寿命延伸が達成されるかのような印象を受けます。しかし、一連の認識判断は、おそらく健康に関する常識的価値観が生み出すものです。誰でも病気を早期に発見すれば、病気そのものを予防し、合併症を防ぎ、健康的に生活することができると、そう思います。

 しかしながら臨床研究からの示唆を紐解いてみると、どうにも、この糖尿病の早期発見、すなわち糖尿病スクリーニング事業はすっきりしないのです。英国で行われた臨床研究をご紹介いたしましょう。

Simmons RK, Echouffo-Tcheugui JB.et.al. Screening for type 2 diabetes and population mortality over 10 years (ADDITION-Cambridge): a cluster-randomised controlled trial. Lancet. 2012 Nov 17;380(9855):1741-8. PMID: 23040422
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23040422

 ADDITION-Cambridgeと名付けられたこの研究は「2型糖尿病のリスクが高い人は、糖尿病検診を受けたほうが良いのだろうか」という疑問を検討するために実施されたクラスターランダム化比較試験という臨床研究です。 2 型糖尿病発症リスクが高い 40~69 歳の患者20184 人を対象に、糖尿病検診によるスクリーニングを実施する群と糖尿病検診を実施しない群が比較されました。9.6年間追跡した結果、総死亡は検診を受けた人たちで9.5%、検診を受けなかった人たちで9.1%と、2つの群に明確な差は出ませんでした。

 端的に言えば、検診を受けようが受けまいが、結局のところ、死亡リスクは変わらなかったという衝撃の結果になっています。このように認識判断の根本原理を常識的価値観ではなく、臨床研究からの示唆、すなわち科学的根拠に依拠すれば、どうにもこの糖尿病の早期発見事業を「健康寿命を延ばすための良い取り組みだ」というような仕方で確信することが難しくなるのです。

 糖尿病スクリーニング事業を積極的に進めるその認識の根本原理は科学的根拠に基づかない常識的価値観によるものか、もしくはこのような科学的根拠をシステマテックに評価し、そのリスクベネフィットのバランスに対する詳細な検証を加えたうえで推進しているか、そのどちらかと言えましょう。しかし、後者の場合、のちに詳しく述べるように、検診を勧めるべき患者背景が限定される、という事が明らかとなるはずなのです。ただ、この取組のケースでは、薬局に訪れる健康意識の高い(真に健康意識の低い人はそもそも医療機関の受診頻度が低く、このような検診事業にも興味を示すことは少ないのではないでしょうか)を対象としており、科学的根拠をシステマテックに評価しているとは考えにくい印象があります。本稿では糖尿病健診に関する常識的価値観をいったんカッコにいれ、あらためてその意義について、とらえ直したいと思います。

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