地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2015年09月号 vol.1(7)

患者が症状を説明する言葉は、なぜ、そのまま医師に届かないのでしょう? (1)

2015年08月16日 13:28 by spitzibara

 私には、28年前、娘を産んだ2日後に聞いた、産婦人科医の忘れられない一言があります。その日の回診の際、私は肋骨が痛いと医師に訴えました。お産の最後に師長さんが私の胸の上に馬乗りになって押しまくったので、「その際に……?」と不安になる痛みがあったのです。

 それで、回診の時、医師にその痛みを訴えたのですが、それは私にとって、すごく勇気のいる行為でした。なにしろ、たいそう偉い(その半年後に某大 学病院の教授に就任されたくらいの)、威厳のある医師だったのです。……すんません、正直に言います、むちゃくちゃエラソーな先生だったのです。「ここが 痛い」と一言を発するために、患者が前の晩から眠れずに決心を何度も固めなければならないくらいに。で、その日、私は前の晩から蓄えた勇気を奮って言いま した。

「あの、肋骨の、ここのところが、ちょっと痛い、んです、けど……」

 先生は即答でした。

「そんなはずはありません」 へっ……?

「痛いのはおなかのはずです」 げっ……?

 「子宮が収縮しているから、いま痛いのはおなかです」

 きっぱりと言い捨てて先生が部屋を出て行った後で、私はようやく、つぶやきました。

「私のどこが痛いかを、どーして先生が決めるの? 先生は私じゃないのに……?」 

 以来、重い障害のある子どもの親として密接に医療と付き合いながら、「患者が症状を説明する言葉は、なぜ医師に そのまま受け取ってもらえないのだろう」と、何度もつぶやく体験を繰り返してきました。そうした体験話も、おいおいにこちらで披露してみたいところです が、最近、自分自身が患者として興味深い体験をしたので、今日はその話を。

 念のため、ここに登場する産婦人科医も内科医も、私が長年信頼している先生方です。いつも過不足のない説明があ り、インフォームド・コンセントを「する」のではなく、きちんと「とって」くださって、ほたほたと患者に愛想をすることもないかわりに、冷静な観察と対応 は的確です。このエピソードは、医師個々を批判する意図のものではなく、あくまでも「患者の訴えと医師の受け止め方の間にある微妙なズレ」という、多くの 医師に共通している可能性のある「傾向」について、患者視点から書いてみようとするものです。どうぞ誤解なさいませんように。また、話が煩雑になるのを避け るために、詳細はいくらか省いてあります。

 

もしや……卵巣がん?

 数週間前、左下腹にぐりっとしたものがあることに気づきました。2ヶ月前に、兄を胃ガンで亡くしたばかりです。 「来たか? 私にも……?」 60前ともなると、マジで衝撃が走ります。不安を押し殺しつつ何度確かめてみても、ある……。ぐりっと、細長いものが。「し こり」にしては、細く、縦に長い。押えたら、ちょっと痛い。場所からすれば……卵巣? そういえば10年ほど前に卵巣が腫れていると言われたこと、あった な。やっぱ、もともと弱いところに来るのか? たしか「沈黙の臓器」……。でも卵巣って、こんなに細長くはないはずだし。痛みももっとおなかの表面にある し。……もしかして腹部大動脈瘤とか? でも「拍動」はしてないし……。ネットであれこれ検索しつつ、だんだんと不安が募ってきます。なんといっても私に は寝たきりで全介助の娘があります。この娘を残して逝く覚悟は、まだできていません。丸一日おなかを何度も押えてみては確認と現実否認を繰り返したあげ く、私にしては思いきりよく近所の産婦人科医院に出かけました。まずは一番気になる卵巣がんの確認と、ついでに何年もサボっている子宮がん検診を受けてお こうと思ったのです。

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