地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2016年06月号 vol.2(6)

「事例から学ぶ疫学入門」第9回:薬剤効果の偶然性と必然性~統計的仮説検定の解釈~

2016年05月21日 22:56 by syuichiao

 疫学の目的は、一つには、薬物治療などの医療による介入行為が、患者さんにどのような影響を及ぼすのか検討するためにあると言えます。例えば血圧を下げる薬を飲むと、将来的に脳卒中の発症がどの程度抑えられ、結果的にどれくらい長生きできるのか、と言うようなことを検討するわけです。医療介入とその後の人への影響を探求するこのような学問分野は、特に臨床疫学と呼ばれることもあります。

 さて、疫学の目的を達成するために、様々な研究がおこなわれるわけですが、このような疫学研究の結果は、一般的には統計手法を用いて解釈されます。

 先の血圧を下げる薬を例に考えてみましょう。薬の効果を検討する際、疫学研究の代表的なものがランダム化比較試験と呼ばれるものです。高血圧の患者さんをたくさん集めてきて(通常は数百人~数千人規模)、薬を飲んでもらうグループ、そして薬効成分の含まれていない偽薬、つまりプラセボを飲んでもらうグループの2群にランダムに振り分け、その後、数週間から、研究によっては数年間、観察を続け、脳卒中の発症頻度を比較するのです。薬を飲んだグループで、プラセボに比べて、脳卒中の発症率が低ければ、薬に効果がある、ということができるわけです。

 ところで、以下の(表1)を見てください。これは高血圧患者さんを対象に、血圧を下げる薬剤Aとプラセボを比較し、脳卒中と総死亡がどれくらいだったかを示した、あるランダム化比較試験の結果です。

 
(表1)降圧薬Aとプラセボの比較(Beckett NS,et.al.2008をもとに作成)

 1.8年(中央値)の追跡期間中、脳卒中は年間1000人当たり、薬剤Aを飲んだグループで12.4件、プラセボを飲んだグループで17.7件でした。総死亡も同様に薬剤Aで47.2人、プラセボで59.6人でした。この(表1)を見ると、なんとなく薬剤Aのグル-プの方が、脳卒中も、総死亡も少ないという印象ですが、いかがでしょう。これをもってして、薬剤Aは効果があると言えるのでしょうか。この差は偶然でたものではないか?とは言えないでしょうか。(表1)で示されている差が本当に意味のある差と言えるのでしょうか。

 研究結果に示された差が、偶然ではない、と主張するために、統計的仮説検定という手法を用いるのが一般的です。今回は疫学というよりは統計学的なお話しになってしましますが、疫学研究の結果を考察するうえでも必須事項である、この統計的仮説検定についてまとめていきます。皆さんは「有意差」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。聞いたことがあるという方は以下のように解釈していませんか?

[事例]

 薬の効果を示すために用いられる統計的仮説検定とはどのようなものなのでしょうか? 「有意差あり=効果あり」、「有意差なし=効果なし」、という事ですよね?
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