地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2021年2月号 vol.7(2)

英国の「障害のある私も、ちゃんと治療してください」キャンペーン

2021年01月24日 18:58 by spitzibara

 新型コロナウイルス感染が拡大する中、認知/知的/発達障害のある人たちが感染したり濃厚接触者になったりした際に医療機関でどのような体験をしているのだろうと、とても気になっています。コロナ禍以前から、医療現場には知的障害のある人たちをめぐって、私が「迷惑な患者」問題と呼んできた課題が存在していたからです。

 そこで今月号では、この問題と長年にわたって取り組んでいる英国の知的障害者の権利擁護団体メンキャップの Treat Me Well キャンペーンについて簡単にご紹介してみたいと思います。 キャンペーンのタイトルをそのまま訳せば「私をちゃんと治療してください」。キャンペーンの趣旨からは、私は「障害のある私も、ちゃんと治療してください」と訳したいところです。

 また、treat にはご存じのように「扱う」という意味もありますね。後述するように「迷惑な問題」の本質は実は医療の内容そのものではなく、そこにたどり着く以前に、病院の医療スタッフの知的障害への無理解と偏見がハードルになってしまう、というところにあるので、「私をちゃんと扱ってください」「障害のある私のことも大切にしてください」というキャンペーンでもあります。

 私がネットで英語ニュースを読み始めた2006年、英国のニュースでは時おり、医療専門職の障害に対する知識不足と無理解、偏見のために知的障害のある人たちが適切な医療を受けることができない問題が取り上げられていました。メンキャップの粘り強い情報発信と訴えが奏功し、メディアが関心を寄せ始めた頃だったのでしょう。適切な医療を受けられれば助かったはずの命が失われてしまった悲しい事例も報道されていました。

 翌2007年、メンキャップは亡くなった6人の事例を中心に医療現場での知的障害者への偏見の実態を『無関心による死』という報告書に取りまとめ、医療オンブズマンに問題提起します。この報告書と、医療オンブズマンが医療ネグレクトを認定したマーク・キャノンさんの事例については、2016年5月号の記事「黒人の皮膚は白人よりも厚い……? ~痛みとdiagnostic overshadowingを考える~」で触れました。

 マーク・キャノンさんは骨折して受診した際、自分なりに痛みを訴えていたのに病院スタッフに理解されず、対応が大幅に遅れたために、やがて痛みから食事がとれなくなり、衰弱して感染症で命を落としました。報告書によると、言葉で痛みを訴えられない彼が叫び声をあげ、壁に頭を打ち付ける行為を、家族は「痛みを訴えているのです」と必死に説明しているのに、病院スタッフはまともに対応しなかったようです。類似の体験がある私には、親子に向けられる「また知的障害者が暴れている。迷惑な患者だこと」という白眼視がありありと想像できました。それが、私がこの問題を「迷惑な患者」問題と名付けた所以です。

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