地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2021年11月号 vol.7(11)

イワン・イリイチの死と “トータルペイン”

2021年10月29日 03:17 by shimohara-yasuko
2021年10月29日 03:17 by shimohara-yasuko

トルストイ『イワン・イリイチの死』は、小品ながら、広大なロシア文学の中でひときわユニークな輝きを放つ珠玉の名作です。

イワン・イリッチの死 (岩波文庫)
https://amzn.to/2ZG52dZ

主人公のイワン・イリイチは19世紀ロシアの裁判所の一判事(45歳)。物語はこの人物の訃報から始まります。官界における出世と快適な私生活の充実に人生の努力の大部分を費やし、まずまずの成功に満足しきっていた矢先、イワン・イリイチは不治の病におかされます。肉体的苦痛、仕事・生活への執着、妻や同僚の欺瞞的態度、これまでの人生に対する虚偽の意識、そして、死の恐怖が彼を追い詰めていきます。古今東西ありがちな一人の人物が、トルストイの天才によって、精神の奥の奥、魂の底の底まで解剖され表現されて、人間普遍の一典型になりました。

コロナ禍自粛中、「地域医療ジャーナル」の連載がはげみになって、好きな作家や作品に関連する文献をPubMedで探すという趣味が復活しました。そこでみつけた以下の論文を紹介します。うれしいことにオープンアクセスでした。全文の翻訳ですが、「 」部分は小説の本文からの引用なので、日本語訳(中村白葉訳)の該当部分に置き換えました。

Lucas V.
The Death of Ivan Ilyich and the concept of‘total pain’
Clin Med (Lond). 2012 Dec; 12(6): 601-602.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5922608/

この続きは1ヶ月無料のお試し購読すると
読むことができます。

関連記事

76歳が読む『シンクロと自由』

2022年12月号 vol.8(12)

オープンダイアローグとドストエフスキー ドストエフスキーと医学・特別編

2022年10月号 vol.8(10)

がんと闘った誇り高きアマゾネス ③上坂冬子

2022年09月号 vol.8(9)

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)

2023年3月号 vol.9(3)

「世界なんて簡単に変わるはずがない」 多くの人は疑いようのない事実だと考えてい…

2023年2月号 vol.9(2)

渦中にいると気づかないぐらい ささいな判断の違いが 後になって大きかったとわか…

2023年01月号 vol.9(1)

人らしさ それは人間が持つ、魅力的で神秘的なもの。 その聖域が 人工知能(AI…