地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2016年09月号 vol.2(9)

「お医者さんたちの『まさか?』な死に方」から「人を癒せる医療」に必要なものを考えてみる

2016年08月22日 10:28 by spitzibara

 

 6月6日のワシントンポスト紙(WP)に"The sobering thing doctors do when they die”と題した記事がありました。

  The Journal of American Geriatrics Societyに発表された調査結果について書かれた記事です。元論文のアブストラクトを読んでみると、2008年から2010年までのメディケア受給者の最後の6カ月における病院死、集中治療利用、ホスピス利用の有無と期間について、医師と非医師とを比較したところ、ほとんど違いがなかった、という、かなりざっくりした調査のようです。

  面白いなと思ったのは、これまでは、医師は素人と違って無益な治療を受けるような判断はしないから、穏やかな死に方をしていると言われてきた(例えば2011年にケン・マレイ医師が書いた"How Doctors Die”というエッセイ)とWP記事冒頭で書かれていたからです。ところが、今回、「新たな研究で身もフタもない(sobering)真実が明らかになった。医師も我々その他大勢とまったく同じ死に方をしているのだ」と。

 延命効果のほどは明らかでないのに副作用のある薬を飲んだり、ぜんぜん必要性のない手術を受けたりして、結局は命を縮めてしまった……というケースを山のように見てきたからこそ、医師はそのテの調査に対しては、自分の終末期にはそういう愚かな選択はしない、と回答するのだけれど、「医師も人間ですから、こういう事態に直面し始めると恐ろしくなり、それでこのような認知バイアスがかかるのでしょう」とWP記事で語るのは、論文主著者のコロラド大学病院のダニエル・マトロック医師。

 ふ~ん、それを「認知バイアス」と捉えるのかぁ。そこのところが、やっぱお医者さんだなぁ……と思いながら読み進んでいくと、

 WPの取材に対してマトロック医師ともう一人の著者、同じくコロラド大学病院のステイシー・フィッシャー医師は、問題は終末期にあまり益の無い治療を受けさせるようにできている医療システムにあり、リスク・ベネフィットについて十分な知識のある医師が患者となった場合にも、そのシステムという列車を止めるのは難しい、と分析しています。その例として、もう死に瀕している患者にだって外科医は股関節置換手術をしようとするし、保険会社も費用を出すけど、医療技術よりも専門性の低い食事や入浴の介助となると扱い慣れておらず、メディケアの指示も鈍る、と。

 この比較そのものは、医療と介護の保険制度がまったく異なる日本にそのまま当てはまるとは思えませんが、「医療の世界の文化」とか「医療の世界の価値観・人間観」いう意味では、通じていくものがあるような気がします。つまり「医療システム全体が問題の修正(fixing problems)を目的としていて、安楽・なぐさめ・癒し(comfort)を与えることを目的としていないのだ」と、フィッシャー医師。本誌10月号の企画(Coming soooon!)を意識して、comfortは以後、「癒し」としてみます。

 ここでは、とても興味深い指摘が2つされている、と思います。まず、「医師だっていざ自分の死に直面し始めると恐いから認知バイアスがかかるのだろう」という分析。そして、病気や問題を「直す(fix)」ことだけを目指し、「癒し」を視野に入れていない医療システム。後者にはたぶん「カネを生み出す医療」と「カネを生まない医療や介護」のギャップという問題も隠れ潜んでいるのだろうと思いますが、ここでは、最初の指摘を考えることから「癒し」に繋げて考えてみたいと思います。

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