これまで、この連載では主に健康食品などを取り上げ、その有効性をあらためて検証しなおす中で、その効果の曖昧性というものを明らかにしてきました。しかしながら、それでも人によっては効果がある、という事も多々あります。今回は「健康食品の考え方使い方」の総括として日頃、私たちが目にする機会も多いビタミンサプリメントを取り上げながら、 サプリメントや健康食品が効くとは動う事なのか、考察していきたいと思います。
ドラックストアや、インターネットの通信販売等で手軽に手に入る、ビタミンやミネラルなどのサプリメント。非常に多くの種類があり、美容のため、日ごろの疲れや、倦怠感の改善のため、栄養の偏りなどの心配から、病中病後の疲労回復、あるいは病気の予防のためにサプリメントを摂取することは、一般的には健康的で健全なイメージがあります。まずはビタミンサプリメントの有効性について、科学的根拠をもとにあらためて検証してみましょう。
[ビタミンサプリメントの効果]
ビタミンサプリメントの実際の効果について改めて調べてみると、実はそれほど著明な効果は認められていません。近年報告された各種ビタミンと死亡リスク、心血管疾患リスク、がん発症リスクを検討したメタ分析(24のランダム化比較試験と2つのコホート研究を統合解析した研究)によれば、いずれもプラセボや治療なしと比べて、明確な差はないという結果になっています。1)
プラセボや治療なしと比べた各種ビタミンサプリメントに対する相対リスクと95%信頼区間は(表1)の通りです。相対リスクとはプラセボや治療なしを「1」とした場合にサプリメントの効果が相対比でどれくらいになるのかを示したものです。「1」を下回れば総死亡や心血管疾患、癌などのリスクが低いことを意味し、逆に「1」を上回れば、それらのリスクが高いことを示します。この値は研究参加者のみのデータですが、研究参加者だけではなく、一般的な母集団、端的に言えば、すべての人にはどのような値が推定できるのかを示したのが表中[ ]内に示した●●~●●という数値です。これは95%信頼区間と呼ばれるもので、この範囲に真の値が95%の確率で存在すると解釈して大きな誤りはないでしょう。95%信頼区間の数値範囲が1をまたぐとリスクが減るのか増えるのか分からない、すなわち有効性不明という解釈になります。(表1)に示された通り、いずれのサプリメントも総死亡や心血管死亡、がんに対する効果は不明となっています。
介入種類 | 総死亡 | 心血管疾患 | がん |
マルチビタミン |
0.95 |
1.02 |
0.94 |
βカロテン | 1.05 [1.02~1.08] |
1.01 [0.93~1.09] |
0.98 [0.92~1.05] |
ビタミンE | 1.01 [0.98~1.04] |
0.97 [0.92~1.03] |
1.03 [0.99~1.08] |
セレン | 0.97 [0.88~1.08] |
1.03 [0.95~1.11] |
0.99 [0.92~1.06] |
ビタミンC | 1.06 [0.97~1.16] |
0.99 [0.89~1.10] |
1.00 [0.92~1.09] |
ビタミンD | 0.94 [0.87~1.01] |
0.94 [0.87~1.02] |
1.05 [0.94~1.18] |
カルシウム | 1.04 [0.96~1.12] |
1.09 [0.75~1.60] |
1.03 [0.90~1.17] |
ビタミンD+カルシウム | 0.92 [0.83~1.01] |
1.01 [0.95~1.07] |
0.98 [0.91~1.04] |
(表1)各種ビタミンサプリメントとその効果(文献1より筆者作成)
また別のビタミンサプリメントと心血管疾患への効果を検討したメタ分析でもほぼ同様の結果でした。この研究は50のランダム化比較試験に参加した、49~82歳の294478人を対象に、ビタミンや抗酸化サプリメントの服用(ビタミンA、B6、B12、C、D、E βカロテン、葉酸、セレン、それぞれ単独または組み合わせで服用)156663人と、ビタミンやサプリメント服用なし137815人を比較して、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患発症を検討しています。その結果、明確な効果を認めませんでした。(相対リスク1.00[95% 信頼区間 0.98~1.02])2) このようにビタミンやミネラルなどのサプリメントは、一般的に慢性疾患の発症を予防するようなイメージがありますが、長期的な健康への影響は不明なのです。
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